A Shooter 1

私の名前はオルガ。17歳。「灯台」に住んでいる者達の中で、唯一、魔力を持っている。

師匠の下について修業して、元素とエネルギーについての知識と術を知るって言う、魔女に成れる条件をクリアしてないから、正式には魔女ではない。

だけど、邪道とは言っても魔術使いとして、「灯台」の住人達が生活に困らないような工夫をさせてもらってる。

もちろん、生き延びるのに必要なのは、そんな綺麗な仕事だけじゃない。

私達、ウェアウルフ・ウィルス保菌者を殲滅するための兵器が、ダンキスタンで作られた時、数人の仲間と一緒に、その兵器の製造を阻止しに行った。

私は狙撃手として、遠距離のビルの上から、廃墟の病院を狙っていた。私の視力で観ると、兵器の製造者である、リム・フェイドが、廊下を歩いているのが見えた。

ある部屋の前で立ち止まって、誰かに話しかけている。リム・フェイドの他にも、兵器の製造にかかわる者が居るらしい。

私は魔力の弾丸で、リム・フェイドを背後から狙撃した。狙いは確実で、撃たれたリム・フェイドは、背中に赤い点を作って、体を引きつらせた。でも、倒れなかった。

もう一人のほうも狙おうとしたが、病院の中で結界が起動したのが分かった。それも、霊術で作ってある結界だ。私の力じゃ、弾丸を放っても貫けない。

向こうからも誰かが「視野」を飛ばしてくる。私は、力で陽炎を作り、私の姿を見えなくした。

「オルガ。場所は何処だ?」と、仲間の思念波が飛んできた。私は、「病院の1階。南西の角の部屋」と、位置を教えた。

病院の中で、霊術が行われてる。何らかの降霊術を使っているらしい。

兵器に魂を宿らせようとしているのか? なんのために? と、私は疑問を持った。仲間は大型のトラックを調達し、混乱している街の中を荒っぽく走らせてる。

「こいつで壁に突っ込む。少し『強化』の力をくれ」と、思念波が飛んでくる。

「了解。でも、タイミングが重要だ。今突っ込んでも、結界に遮られる」と、私も思念波を飛ばす。

私達は、機をうかがって、しばらく様子を見た。

結界の中で行われていた降霊術が終わった。私の視野に、ようやく術者と「兵器」の姿が観えた。術者は、私とそう年の変わらぬ娘だ。

何故、こんな廃墟の病院で兵器を作っているのかも不思議に思っていたが、その謎が解けた。兵器は、人間の姿をしていたのだ。

殲滅兵器と聞いて、無駄玉を何千発も撃つ機械の塊を想像していた私は、リム・フェイドの狡猾さに胸の悪くなる思いがした。

あいつは、人間の中にこっそり兵器を紛れ込ませ、静かに確実に、ウェアウルフ・ウィルス保菌者を「消して」行く気でいたのだ。

私達が、友達だと思って手を差し伸べた途端、その手を手首から切り落とすような存在を作り上げていたのだ。

人間の姿をした兵器は、術者と何か話し、術者は一度兵器の居る部屋から離れた。

チャンスだ。私は、仲間の乗っているトラックの正面に、魔力の壁を作った。これなら、コンクリートの中に突っ込んでも、トラックが大破したりはしない。

術者が、また兵器の居る部屋に戻ってきた。「まだ待て。結界を起動される恐れがある」と、私は仲間に思念波を送る。

術者は、女性の裸身の姿だった兵器に、入院着のようなものを着せた。

どうやら、兵器が完成したことで、気を抜いているらしい。

「今だ! 行け!」と、私は仲間に思念波を送った。エンジンを唸らせて待っていた仲間は、加速をつけながら病院の敷地に侵入し、病院の壁をぶち抜いた。


外を見張っていた仲間に声をかけた。「クァムが追ってる。今のうちに引くぞ」

「オルガ。兵器はどんな形だった?」と聞かれ、「人間の女そっくりだ。黒い髪と、ヘーゼルの目をしてる。細身だが、どの程度パワーがあるかは…」

そう言いかけ、私は上空の気配に気づいた。空を見上げると、入院着を着た機械女が、自分と同じくらいの体格の娘を抱き上げ、10m程離れた別のビルに飛び移るのが見えた。

直線距離で10mなら、大した距離でもない。私達でも、余裕で飛び移れる。でも、あの機械女は、10mを斜め上に弧を描いて飛び上がったのだ。

自分の体重を支えるだけじゃない。人間一人を抱えたまま、私達並みか、それ以上の身体能力を発揮できる機能を持っている。

「追うか?」と、仲間が聞いてきた。

「いや。リム・フェイドはしとめた。一旦引くぞ」

私はそう答え、混沌と言う言葉が似合う街を離れた。


突然変異型ウェアウルフ・ウィルスは、保菌者に「闇の者」に似た力を与える。筋力の増強、視力や聴覚、嗅覚の鋭敏化が主だ。

私は、ウィルスに感染してから、元の魔力に「闇の者」の気配が加わった。鍛えたわけでもないのに、遠距離を見通せたり、透視が出来たりするのはそのためだ。

その代わりに、ウィルスはひどい飢えを起こさせる。私達が撤退を急いだのも、その飢えに襲われるのを避けるためだ。

走っている途中で、仲間の一人が「飢え」の限界を迎えた。地面に膝を折り、頽れる。

「チクショウ…。オルガ、アノイとエスカを、頼む…」

「ふざけるな。自分の娘達くらい、自分で面倒を見ろ」と、私は言って、そいつに「治癒」の力を分け与えた。「みんな、帰ればちゃんと肉が食える。それまで諦めるな!」

そう声をかけたところに、クァムの乗っていたトラックが通りかかった。トラックは私達の隣に停まり、苦い顔をしたクァムが運転席から顔を出した。

「撒かれちまった。だが、敵の様子はしっかり暗記したぜ。乗れ!」と、クァムは言って、私達がトラックの荷台に乗ると、残りの道中にエンジンをふかした。


私達は、「灯台」に着くと、飢えの限界で身動きの取れなくなった仲間を数名、看護係に任せて、カインの部屋に向かった。

クァムと私は、統率役であるカインに、兵器の姿と身体能力を話した。

「それだけ分かれば、進路は切り拓けるな」と言って、カインは顎に手を当て、何か考えている風だった。「クァム、飯を食いに行け。オルガ、まだ少し話がある」

クァムは、「やっと胃袋を満足させられるぜ」と言いながら、カインの部屋を後にした。

クァムが階段を降りて行く足音が聞こえてくると、「俺に言っていないことがあるだろ?」と、カインは私に聞いた。

「兵器の事でか?」と私は言って少し考え、確かに言っていないことがあるのに気付いた。「兵器の安置されてた部屋で、降霊術が行われていた。兵器に何かの魂を宿していたようだ」

カインは、「なるほど」と答え、肩を回して伸びをした。そして、「半日前、ダンキスタンの近くで雷に似た魔力が蠢いてた」と言う。

「雷に似た魔力…?」と、私は考え込んだ。天候に影響を及ぼすほどの、強大な魔力が蠢いていた…それも、私が「降霊術」を見ていた時間帯に。

私と同じくらいの年齢の霊媒師が、一体何を呼び出し、あの兵器に宿らせたのか。私はそれを考えて、背筋に寒気が走った。

「カイン。兵器を壊せなかったのは、私の失敗だ。挽回する機会はもらえるか?」と、私は聞いた。

「急ぐな。これから事態がどう変わるかを見極めてからだ」カインはそう言って、私の背後の扉を指さした。「今はゆっくり飯でも食え」

私は「分かった」と答えて、カインの部屋を出た。階段を降りて行くと、外から肉の焼けるにおいがしてくる。

失敗であれ、一仕事終わったんだ。私も、空っぽだと悲鳴を上げる自分の胃袋を癒しに、外に出た。