闇の鼓動 Ⅱ 序章

戦争。それは「世界」を分ける争いの事だと思っていた。

善か悪かじゃない。誰が得をして、誰が損をするか。誰が支配して、誰が隷属するか。それを決めるものなのだと、私は知った。

私は、支配しようとする者達から、逃れることを決めた。

だからあの時、私は彼女に言った。「こいつを殺して」

今までで、一番冷静で、感情に流されない私が居た。

「こいつを生かしておいてはならない」

そんな直感が生んだ言葉だった。

何かに裁きを下すなら、長い審議と公平な裁判が必要だと信じている人達は、今でもいる。

だけど、機械のラナだって、すごいスピードで思考を組み立ててる。その判断力で、数秒先を読み、ほとんどの場合は瞬時に行動できる。

私がこの1ヶ月で集めた情報と、出逢った混乱、その結末を知り、その物語を創り出した者達を知った。

もし、あの直感を何かの意思だと言うなら、あの時私は「天啓」を受けたのだ。

この者を殺しなさい、と。

怒りが思考に追いついてきたのは、後からだった。

何も分からず、唯、飢えのままに、弱い者や、互いを食い殺し合う、それだけの価値しかなくなった者達を、私は許せなかった。

人は人を食える。そんな話を何処かで聞いたのを、怒りの中でうっすらと思い出した。

実際の肉としての意味だけではなく、「食う」と言う、一番身勝手な欲に例えられた、逸話であることも知っていた。

そんなに「食らい」たいのか、ならば、この力を、このエネルギーを、魂を消滅させるまで「食らう」が良い。

私は、彼等の狂った魂の存在すら、否定した。

霊媒師になるとき、私は3つの誓いを立てた。「常に身を清く、心を健やかに、屈することなかれ」。この3つだ。

私は、この誓いを守れているだろうか。

もし、誓いを破らなければならない時が来たら、私の一番の親友に、この誓いを譲ろう。

人間の私は、自分では抑えきれない「感情」と言うものを持っている。

元「魔物」の彼女にも、多少の感情はある。だけど、私より、ずっと清らかで、健やかで、屈することが無い。

私は、彼女に守られてるのが当たり前だと思ってた。

だけど、今の私は、彼女を守ることだってできる。

12歳で魔術の修業を卒業し、5年間を霊媒師として働いていた。

私は、彼女が知ることのできない、「死」の向こう側からの声を聞き、その存在に触れることが出来る。

この力を持って、彼女を守るんだ。彼女が、清く、健やかで、屈することが無いように。

そんなことを思いながら、私は「まだお人形遊びをしてるの? レミリアちゃん?」なんて、自分に声をかけたくなる。

でも、私はまだ素直にこう言える。

「大好きだよ、ラナ」って。