日の出とともに、何処からか烏の群れが飛んできた。
死んだり身動きの取れなくなった「感染者」の肉を食べている。この烏達を通して、国外にまで感染が広がる恐れがある。
高台の丘に身を隠して居た、ラナとレミリアはその様子を見て話し合った。
「一度に全体を攻撃する必要がある。銃だけでは無理だな…」と、ラナ。
「飛べないくらいに痛めつければ良いんだよね?」と、レミリア。
「そうだ。国の外に出れないくらいに」
「分かった。鬼火を使えば、なんとかなる」と言って、レミリアは自分を囲んでいた鬼火達を、青白い光を纏う炎の矢に変えた。
夢中で死肉をあさっている烏達に、音もなく炎の矢が降り注ぎ、その風切り羽を焼き尽くした。
レミリア達は、「危険は承知」で、グランの研究所に向かっていた。
ダンキスタンの研究所から逃げた者達に、薬剤にしようとしている実験体の体液が「危険な変化を起こす効果」を持っているのを、知らせるためだ。
もし、それを農薬と同じ気分で散布した場合、どんな結果が起こるかは想像がつかない。
ある町角で、まだ通信のとれる公衆電話を見つけた。コインを投入し、力で通信をシールしながらレミリアがウィンダーグ家に電話をする。
女中から、現在ウィンダーグ家の当主であるルディに取り次いでもらい、状況を報告した。
「ベルクチュアでの混乱は、こちらでも取り上げられて居ます」と、ルディは答える。「救援物資の輸送が、数日前に行われました。それから、近日中に救援軍が送られる予定です」
「救援物資と言うのは?」と、レミリア。
「ヘリで、町の中に箱が投下されているはずです。ニュースでは、食料と飲み水等の物資としか報じられていません」
「そうですか。ありがとうございます。私達、これからグランと言う町に在る研究施設に向かいます。そこも、恐らく戦場になっています」
レミリアがそう言うと、ルディは落ち着いた声で、「お気をつけて」と返した。
ルディ達が、直接ベルクチュアの災害現場に来るわけにいかないのは、レミリアも理解している。
レミリアは、ルディに礼を言って電話を切った。
手持ちの食料が足りなくなってきていたので、ルディの情報は非常に役立つものとなった。
だが、街の中に投じられた箱の周りには、「感染者」達がうようよ居る。食料を得ようと集まって来ていた「元・未感染者」だろう。
肉以外に食欲のわかなくなった者達は、かつて「救援物資」だったものの周りで、途方に暮れている。
「ラナ、箱を壊さないように感染者を追い払える?」と、レミリア。
「狙う角度に寄るな。鬼火を数匹借りるぞ」
ラナがそう言うと、レミリアは弾丸に宿す鬼火の力を増強させた。
鬼火の炎を纏った、宙をうねる弾丸が撃ちだされた。炎の弾丸は、撃ち殺した者の傷口を瞬く間に焼き、感染者の体液が飛び散るのを防いだ。
炎の弾丸は、危険に気づいて逃げ出した感染者達を遠方まで追い払って行く。
その隙に、ラナとレミリアは「救援物資」の箱に近づいた。
感染者の体液がついていることを考慮して、ラナが外側の分厚い段ボールをナイフで切り裂いた。
レミリアは、安全な内部の物資から、使えそうなものを選び出す。飲料水の入ったペットボトル、ビスケットと野菜ジュース、菓子パン。
「ガスマスクもある」と、レミリアが言う。ラナはそれを聞いて、「必要ない物は持って行くな。荷物の重さで疲労するぞ」と注意した。
「そうだね」と言って、レミリアは食糧だけを鞄に詰めた。
その日も、無人のビルの中に身を隠し、守護の結界の中で夜を迎えた。
レミリアがルルゴの手帳を広げ、母親からの「通信」を読んでいる。
「もう3日も『通信』が無い…。グランの研究所はどうなってるんだろう」と、レミリアは不安そうだ。
レミリアの肩に淡く青白い光を宿した、ルルゴの霊体が浮かび上がる。
「恐らく、アリア様は、魔力の閉鎖されるシェルターに隠れている可能性があります」とルルゴは言って、「ラナ様の予測が的中している確率は高いかと」と続けた。
「実験体の暴動が起こっているって言う事?」と、レミリア。
「その通りです。グランの研究所には、知力の上がった魔獣達が溢れているかも知れません」と、ルルゴも顔を曇らせる。
ルルゴの言葉は聞き取れていないようだが、ラナはレミリアの言葉から、会話をしている内容を予測して提案した。
「『実験体』に遭遇する危険があるとすれば、なるべく消耗せずに侵入できるルートを探る必要があるな」
「そうだね」レミリアは頷いて町の地図に「探知」の紋章を描きこんだ。
地図上にグランの町の様子が浮かび上がる。数日前まではまだあった青い点が、急速に少なくなっている。
「少し北へ進むと、川にぶつかる。通常の感染者は、そこにはいないみたい。その側道を1kmくらい西へ進んで、南に真っ直ぐ下がると、グランの研究所がある」
レミリアの提案を採用し、「感染者に見つからないで」進むルートを選んだ。
