すっかり乾いた霊媒師用の白い服を着て、レミリアは日の落ちそうな自分の居室で術を操っていた。床に魔法陣を描き、伝心術と読心術の能力を上げている。
鬼火の魔力を通して、ラナに指示を出しているのだ。
レミリアには、ラナの周りの俯瞰の映像が見えていた。
「やっぱり『実験体』は近寄って来ないね…。ラナ、残弾数は?」と、レミリア。
「散弾が180、ライフル弾が50」と、ラナも伝心を送る。
「どっちも最小限の数は残しておいて。弾丸の性質で、操り方が違って来るから」
「了解。レミリア、物陰に隠れている『感染者』はどうする?」
「日が落ちないうちは放っておこう。今はお母さん達を連れてくる方が先だよ」
「同意見だ。では、進むぞ」
そう返してから、ラナは空が赤く染まり始めた町の中を足早に進んで行った。
ある路地で、ラナ達は「実験体」と「感染者」の攻防を観た。
飢餓に気の触れた「感染者」が、勝てないと知りながら「実験体」をどうにか屠って食べようとしているのだ。
巨大な飛べない鳥…かつて何処かの大陸に生存してた「ドードー」に似た「実験体」が、蹴爪で「感染者」の腹や頭を吹き飛ばしている。
だが、「感染者」も数で応戦し、ドードーの首の周りに群がって、太い喉を切り裂いている。
体から血液が失われ、ドードーは倒れた。
ラナとレミリアは、初めて「実験体」が「感染者」に食われている場面を見た。
異変は間もなく起こった。
「実験体」を食った「感染者」達の体が溶け、変貌し始めた。四肢の力を無くしてうずくまった「感染者」達が、段々と肉の塊になって行く。
「『大地を食らう癌』だ」と、レミリアは言った。
「これがか」と言って、ラナは表情を険しくした。「アルフと言う奴は、『世界を変える赤ちゃん』と呼んでいたが」
「うん。この『大地の癌』を広めることで、世界を混乱から救うって、あの魂は言ってた」レミリアは厳しい声で言う。「だけど、そんなの救済じゃない」
「そうだな。増殖が始まる前に、潰そう。レミリア、『癌』の弱点は?」
「肉の表面にある突起。球根の芽みたいなやつ。それを、全部焼き尽くすんだ」レミリアはそう言って、遠隔的に鬼火に霊術を施し、炎の矢に変えた。
「散弾を使う。追尾の術を」と、ラナは言った。「OK」とレミリアは答えて、ラナの構えた銃に、炎の矢と化した鬼火を憑りつかせた。
ラナが、膨張しつつある肉の塊に銃口を向け、青白い光を纏った弾丸を撃ち放つ。
散弾は一粒一粒の威力が上がり、少なくとも20はあった大小さまざまな「大地の癌」達の芽を、全て焼き尽くした。
飢えで知力が落ちているとはいえ、「感染者」も一定の知能は維持している。物陰から見ていた者達は、「実験体」を食ったらどうなるかを知り、それを周りの「感染者」に伝え始めた。
キルテの館で、グランの町全体に「探知」の術をかけていたレミリアは、地図上に赤く浮き上がっている点が、急速に移動し始めたのを知った。多数の青い点が集まっている場所を囲むように。
「なんだろう…『感染者』が、集まってる」レミリアは言った。「ラナ、其処から東の公園に、未感染者のたくさんいる場所がある。でも、感染者は…危害をくわえようとはしない」
「アリア達の気配は?」と、ラナ。
「お母さん達は居ない。でも、未感染者がたくさんいるの。避難場所なのかな?」
「様子を見に行くか?」
「ううん。今は、お母さん達を探して」レミリアは冷静に言う。「魔力は『追跡』出来そう?」
「ああ。心配するな」と答えて、ラナは「千里眼」の魔力を宿した護符と同じ魔力を追い、アリア達の籠城しているビルに近づいた。
アリアは、「千里眼」の護符の魔力が段々近づいて来ていることを知り、生き残っていた仲間達に「移動の準備を」と指示を出した。
「助けが来るのか?」と、レオナルド・ルードが聞いてきた。
「ええ。でも、救援軍では無いわ。武装した女性が一人。でも、軍より頼もしいかもしれない」と、アリアは皆を励ますように力強く言う。
「どう言う事だ? 女一人で…この町の中を『無事』に移動してるって事か?」と、マイクが聞く。
「外見は女性でも、中身は金属の塊だわ」と、アリアは仲間達に解説した。「アンドロイドって言うものね。人間とほぼ変わらない姿をしてるけど、性能は、緻密かつ頑強」
「だけど、もうすぐ夜が来る」と、グリンは怯えている。「『変化』したあいつらが出てくるじゃないか」
「確かに、今晩も月夜ね」と言って、アリアは自分の荷物から、本物の守護の力を宿した「お守り」を取り出した。
「簡単な結界を張れる護符よ。多少の襲撃くらいはかわせる。でも、強度のある結界を発動できるのは、最高でも3度までだと思って」
食糧や、簡単な武器を手に取った仲間達は、アリアから護符を受け取った。
グリン・セラだけが、ガタガタと震えている。「本当に、大丈夫なのか?」
「アリアを信じよう」と、マイクが言う。「俺達は、幼稚園の先生に手を引かれてる赤ん坊みたいなもんなんだからな。先生が『今から散歩に行く』って言うんだから、喜ばなきゃならないんだぜ?」
