西日に空が染まる頃、ラナはアリア達と合流した。「救助に来た。だが、これから戦場を歩いてもらうことになる」
いの一番にラナは言う。
「生憎、乗り物を用意できなかったのでな」
「承知してるわ」と、アリアは答えた。「あなたの名前は?」
「ラナ」と答え、銃のマガジンを確かめる。「約8時間歩いて、郊外に向かう。『感染者』や『実験体』に後を付けられないように、だ」
「敵を切り抜けるには、どうするの?」と、アリア。
「幸い、『感染者』の次の食欲は、『実験体』に向いている。『実験体』が危険なものだと分からないうちは、私達より『実験体』を狙うだろう」
「隠れながら移動するわけか」と、マイクが言った。
「そうだ。直接攻防するわけにはゆかない。私も、そんなに豊富な装備を持っているわけではないからな」
「ぼ、僕は…」と、グリンが渋った。「此処に居たい。ちゃんとした救援軍が来るまで」
「その前に飢え死ぬぞ」と、ルード。
マイク達は、しばらくグリンを説き伏せようと粘ったが、グリンは戦場を歩くことを拒んだ。
「分かった。お前が持ってる分の食料と水は、お前が食っても良いから、ここに籠城してろ」とマイクに言われ、グリンはようやく安心した顔をした。
戦場を歩くことにしたアリア達は、チョコレートを食べ、水を飲んでから、ラナに続いてビルの外に出た。
人気のないビル群を通り過ぎると、共食いをしたり「実験体」を狩ろうとして殺された「感染者」の死体がごろごろしている。数日前の様子を知るアリア達も、一瞬怯んだくらいだ。
日が落ち切り、月が明るくなるまでの数時間の移動は、速やかに行われた。
残照が消え、月の光が強くなる。
「そろそろ化物達が現れるぞ。絶対に走るな。物音を立てず、静かに動け」と、ラナが言う。アリア達は「OK」と返した。
何処かから、獣の遠吠えが聞こえてくる。狼の声に似ているが、少し違う。狂喜する人間の高笑いにも聞こえる。
「ラナ! 隠れて!」と、レミリアの伝心がラナの頭にだけ響いた。ラナ達が、手近な物陰に身を隠すと、通ってきた路地を、獣の姿になった「感染者」達が歩いて行く。
ラナは、散弾に鬼火を力を込め、自分達を追って来ていた「感染者」達の頭を静かに撃ち抜いた。
「その銃、サイレンサー付き?」と、アリアが心の声で聞く。
「弾薬で発砲しているわけじゃない。魔力式だ」と、ラナも心の声で返す。
ラナとアリアがアイサインをしているように見えたらしく、マイクとルードは不思議そうな顔をしていた。
少し進んでは隠れ、追っ手を始末し、再び少しずつ前進する。その繰り返しを経て、ラナ達は町を出る手前まで来た。
だが、来るときに通った道が、異形の物で塞がれていた。「大地の癌」の群れだ。
「ここまで『感染者』と『実験体』が来たと言う事か…」目つきを鋭くすると、ラナは弾丸に鬼火の力を込めた。
撃ち放った散弾は、いつものように「大地の癌」の芽を焼きつぶす。
溶解した「大地の癌」の下に、花が咲いているのを見て、レオナルド・ルードは、「植物の構造を組み込んだのはこのためか…」と呟いた。
一人で救護を待っていたグリン・セラは、ストレスから逃れるため、持っていた食料を食べつくし、飲み物を飲みつくした。
「食糧…持って来なきゃ…」と言って、最後のチョコレートバーを食べてから、ビルの近隣にある地下の食品売り場に向かった。
傷みかけている物もあるが、食料で溢れた食品売り場は、まるで天国のように感じられた。
もうここから動きたくない、そんな願望が働いた。
グリンは、そこで好きなだけ食って、飲んで、満腹になって、床で眠った。
そして目覚め、また食品をむさぼった。床の一部に飛散していたウイルスのついた両手で。
高層の建物が姿を消し、次第に視界の中に田畑が広がってくる。
「もう一歩だ」と、ラナは小さな声で言った。
その声を聞きつけたのか、何者かが近くの建物からラナの背にとびかかった。
ラナも気づいて、振り返った。銃を向けたが、「狙う」暇がなかた。
首筋と、銃を持っている手首を地面に押し付けられる。「変化」した感染者だ。かなりの巨体と怪力の持ち主で、ラナの力でも、中々振りほどけない。
マイクが、手にしていた防災用の斧で、「感染者」の頭を、背後から砕いた。返り血が、マイクの顔に飛び散る。敵は力を失い、地面に倒れた。
「馬鹿なことを…」と、ラナが身を起こしながら言う。
「俺もそう思う」と言って、マイクは血まみれの斧を地面に捨てると、両手を上げ、「さぁ、『処分』してくれ。俺は此処で打ち止めなんだろ?」と言った。
「殺すわけには行かない」と、ラナは言い出した。「人間としての『知性』を持っているうちに、お前には働いてもらう」
「まだ寿命をもらえるとはね」と、マイク。「それで、俺はどんな仕事をすれば良いんだ?」
日が昇る頃、ラナ達は「追跡者」を残さずに、キルテの館までたどり着いた。
館の近くの空き地で、ラナは防護服を脱ぎ、手袋と長靴をはずした。キルテから油とマッチを借りると、ラナは危険物を空き地で燃やした。
その頃、アリアはレミリアの力の気配を追って、彼女の居室の前に来ていた。中から、何かの術を使っている気配がする。
「感動の親子対面」の前に、レミリアにも何か仕事があるのだろう。
アリアはそう察し、しばらく子供達と一緒にキルテの昔話を聞いていた。
