その村は、私達しか知らない場所にある。
住人は、みんなウェアウルフ。でも、普通のウェアウルフじゃなくて、少し訳アリの。
掟として、月の光を浴びることを禁じている。獣人化することは、村の存続に関わるから。
最初は40人ほどの小さな集落だった。住人達は、その中で、恋をして、血を継ぎ、掟を伝え、村は少しずつ発展していた。
私は、村の場所を知る数少ない外部の者として、時々その村の支援に行く。私の職業は霊媒師だけど、祭事の司祭役や、結婚式の時の立会人の役もする。
葬儀の時は、ラナを連れてその村を訪れ、同族にも「危険」とされている、遺体の火葬や浄化等の処理を行う。
私の役目は、何でも屋さんって所かな。
村の外に出ても良いのは、死んだ者の亡骸と、それを弔う係の者だけだ。
弔い人は、皮とフィルターで出来たマスクをして、外部に唾液が飛び散らないように用心しながら、埋葬の作業をする。
私は簡易結界が張れるけど、子供達に無用な疑問を抱かせないために、葬儀の時はマスクをしてる。呼吸をしていないラナも同じだ。
子供達は、葬儀の時はマスクをするものだと教えられている。詳しい理由は知らされないまま。
私のお母さんも、時々、村の仕事を手伝ってくれたり、子供の名付け親になってくれと言う申し出を引き受けたりしている。
この村は、私のお母さんが、村を守護する魔術をかけてくれている。
お母さんは言霊使いだから、長期間の魔力の維持が可能なんだ。刻む文字に魔力を宿して、半永久的な効力を持たせることが出来る。
村長である「カイン」と、補佐役の「セト」も、魔力に似た力を持ってる。でも、その能力は、魔力のように固定しておけない。
能力を使うときは、常に意識を集中しなきゃならなくて、段々大きくなる村の運営をして行く上では、あまり有効ではない。
でも、大きな音を出せない村の中に、素早く情報を伝えるためには、カインの「心の声」は、とても使い勝手のあるアナウンスだ。
村は大きな魔法陣を形作るように家が配置され、夫々の家に隠してある「守護」や「退魔」のアミュレットの力をつないで、村全体を外部の者の目から隠している。
私達は、きっと村の運営は上手く行くと思ってた。
初代の住人達は、みんな自分の体に起こっている異変が起こす危険性を認識していて、外部と無理に接しようとはしなかったからだ。
だが、代が変われば、意見の違う物だって出てくる。
子供の頃から村の中に居ても、村の掟に疑問を持つ者、外の世界に憧れ始める者、自分達がウェアウルフであると認識していない者、様々だ。
だって、そこは孤島ではない。村の外には、「触れてはならない」自然が存在し、村の外にも世界はあるのだと、常に子供達は夢を見ているのだから。