森を抜けた崖の上から、川の水が滝になるのを、エレンはずっと眺めていました。
体はすっかり猫の形に戻り、気分良く尻尾をくねらせています。
「雨上がりは気分が良いわね。もっとも、足元は最悪だけど」と、傍らでゾウのヘレナが言いました。
「ヘレナは草を踏まないで歩くから悪いんだよ」と、エレンは苦笑しながら言いました。
「食べ物を踏むなんてナンセンスだわ」と、ヘレナが言いました。
エレンは、恐らくヘレナがそう答えるだろうと思いましたが、黙って滝を見ていました。
「猫は動くものが好きね」と、ヘレナは言いました。
「うん。何故か分からないけど、指先でつんつん触りたくなるんだ」と飼い猫らしく答えると、
「此処からじゃ届かないわよ」と、ヘレナはいつものようにくすっと笑って当たり前のことを言いました。
「それは分かってるんだけどねぇ…」と、エレンは言葉を濁しました。
「よぉ、お二人さん」と、茂みの中から出てきたトラ猫が言いました。「ネズミに良く似たちびすけが、あちこちに出て来始めたぜ」
「まぁ」と、ヘレナは嬉しそうに言いました。「哺乳類が生まれるようになったのね」
「まだまだ哺乳類ってのには遠いね」と、トラ猫は苦い顔で言いました。「脚はしっかりうろこが生えてやがった」
「食べたりしてないよね」と、エレンはぴしゃりと言いました。
「ネズミもどきの味なんて知りたくもねぇな」と、トラ猫はカラカラ笑いました。
「でも、いい前兆だわ」とヘレナは言いました。「この星も、いずれ動物であふれるのね」
「変わり者の星が増えるって事だ」と、トラ猫はエレンより先に言いました。「おっと。こいつはエレンの台詞か」
「誰が言っても同じだよ」と言いましたが、エレンは少し誇らしい気分がしました。
「ミミズクさんに知らせてあげたら?」と、ヘレナは言いました。「見張り番の良い気休めになるわ」
「そうだね。僕、ひとっ飛びしてくるよ」と言って、エレンは立ち上がり、ふと滝のほうを見ました。
「見て!!」と、エレンは大発見をしたように言いました。「虹が二重に出てる!!」
「あら。めずらしいわねぇ」と、ヘレナが言いました。
「こいつぁ、良い事があるぜ」と、トラ猫が言いました。
その崖の上に、朝の空に残った白い2つの月が浮かんでいました。