Fighter girls 7

吾輩は猫である。名前はクオーツ。雌である。種類はペルシャと呼ばれる。ウィンダーグ家と言う屋敷に、長年住んでいる。もう、何年、いや、何十年、何百年生きているかは忘れてしまった。

毎日、朝と夕に2度、女中に食事をもらう。昼に小腹が空いたときは、ネズミを狩って食う。ペルシャと言う種類の猫にしては、吾輩は機敏な部類なのである。

狩ったネズミを放っておくと怒られると言うのは、やはり何十年か何百年か前に学んだので、捕まえたらぺろりと食べてしまっている。

先代は、我々が狩りの仕事をしていると、納得したように頷き、「よくやった。残さず食えよ」と声をかけてくれた。

我々と言ったが、吾輩には猫生の友が居る。名前はブルー。同じ、ペルシャと言う種類の猫だが、彼女は三毛である。

我々は、雄猫のように勇猛で、大きめの野鼠などにも果敢に牙をむく、猫たる猫である。

だが、るでぃとか言う名前の現当主は、我々が狩りの仕事をしていると、「困った奴等だなぁ」とぼやく。

「良いか? ネズミに触ったその手足で、僕達の膝に乗らないでくれよ」と、なんとも女々しい言いがかりをつけて、我々に狩りを辞めさせようと試みている。

最近、この現当主は妻をめとった。その妻が、我々を気に入り、我々を見かけるたびに、首元や頭をなでてくれる。るでぃ当主は、それを良く思わない。

「シャルロッテ。クオーツ達に触ったら、手を洗ってくれよ?」と、女々しい現当主は妻に言う。

当主の妻は、最初、「何故? 猫が嫌いなの?」と当主に聞いていた。

「クオーツとブルーは、ネズミを食べた舌で、体中を嘗め回してるんだよ? 衛生的に良くないよ」

当主がそう嘆くと、妻は「猫がネズミを狩るのは当たり前でしょ。そんなこと気にしてたら、動物なんて愛せないわよ」と反論してから、「私だって、食事の前には手を洗うわ」と付け加えた。

我々の仕事は、どうやら現代の風潮には合わなくなってきているのだと察し、しばらく、腹が減るのは承知で狩りを辞めたことがあった。

しかし、だ。ある日、女中がキッチンで金切り声を上げて、大急ぎで我々を捕獲し、キッチンに投げ込み、隔離した。

においと気配で、ネズミが数匹いることが分かった。それも、かなりの大物である。

我々は、ネズミの潜んでいる、シンクの下へ狙いを定め、挟み撃ちにすることにした。

両脇から狙われたネズミ達は、真正面に走り出した。我々には、その行動パターンも予測の範囲内である。

一匹は子ネズミだが、一匹は大型の野鼠だ。これは良い獲物である。吾輩は、大きめのほうのネズミの尻尾を踏んで捕らえ、牙をむいてきた野鼠の、その牙ごと、頭に丸ごとかぶりついた。

顎の力で気道をふさぎ、爪を出した両手で、じたばたするネズミの体を捕え、爪を出した後足のキックで、ネズミの腹から下をずたずたにした。

三毛は子ネズミを捕えてきて、吾輩に自慢そうに見せると、ぺろりと食べてしまった。

吾輩はしばらく大型の野鼠と格闘したが、息をふさがれたネズミは、所詮、吾輩の敵ではなかった。

すっかり命の気配が無くなった野鼠の頭を食いちぎり、咀嚼して飲み込むと、残りの部分を三毛と分け合って食べた。

我々は、腹が満ち足りたのと同時に、久しぶりの任務を遂行できたことを誇りに思っていた。

だが、その我々に待っていたのは、「強制入浴」と言う、なんとも理不尽な罰であった。

キッチンは床を洗って消毒され、我々は血の気のない執事により、ネズミのにおいがしなくなるまで5回シャンプーで体を洗われた。

ネズミの肉が入っているかもしれないからと言う、ある種の恐怖が生み出す当主の妄想により、我々は鋭い爪の先を鋏で切られると言う屈辱をも味わわねばならなかった。

だが救いの光はあった。我々への拷問にも近い扱いを見て、先代が、るでぃ当主に「仕事をしたものに対する、お前の礼儀がそれか?」と、我々の意見を代弁してくれたのである。

「父さんの時代とは、意識が違うんだよ」と、るでぃ当主は言う。「今は、猫に歯磨きさせる時代だって、知ってた?」

「それは、キャットフードしか食べない猫のことだろう?」と、先代も言い返す。「生肉を食べる生き物に歯磨きは要らない」

「猫はキャットフード食べてれば良いの。異国の言葉で、ペットって言うのは、『愛玩動物』って書くんだよ。生きてるぬいぐるみみたいなもんなの」

今世の当主は、なんとも、残忍な支配者である。

「自分の布団に入ってくるぬいぐるみが、血なまぐさかったら、父さんだって嫌でしょ?」

「ルディ。お前は、いつからそんなに非常識になったんだ?」と、先代は冷静に言い返す。「生きているものは、ぬいぐるみじゃない。血なまぐさかろうが、泥臭かろうが、愛猫は愛猫だ」

吾輩は、捨てる前のボロボロのバスタオルで拭かれながら、心の中で先代を応援していた。三毛も、きっと同じ気持ちだっただろう。

君主然として、決して我々を撫でさすったり、あやしたりしない先代だったが、こうも我々の性分を理解し、猫と言う生物として我等の誇りを理解してくれているとは、なんとも感極まるものがあった。

るでぃ当主と、先代は、我々の扱いについて、小一時間、話し合ったと言うより、言い合った。

話を総括すると、るでぃ当主は「猫は衛生的で可愛らしく、愛嬌を振りまけば良いだけ」と主張し、先代は「猫は野生を持った有能な狩人であり、ネズミ狩りは彼等の生涯の仕事である」と主張する。

我々も、ブラシでとかされながら、目線や尻尾のサインで話し合ったが、どう考えても、この屋敷は世代交代をすべきではなかったのではないだろうかと言う結論に至った。

るでぃ当主と先代の話は結論が出ないまま、物別れに終わった。

我々は、この時、決めたのだ。我々が生涯をかけて仕える主君は、先代であると。

屋敷を見回っている最中に先代を見つけたら、その場で足を揃えて正しく座り、主にだけ向ける特別な眼差しで先代を見つめ、目が合いそうになったらゆっくりと瞬きをするのだ。

先代も、長年我々と居るが、この行動は初めて見るものらしく、物珍しそうに近づいてきて、我々がどれだけ一つの姿勢で耐えられるかを見るかのように見下ろしてきた。

先代は、自分の妻に、我々の「君主に仕える騎士のような」行動について細かく報告し、2人で楽しげに笑っていた。

そして、ある日、先代は我々に言った。「クオーツ、ブルー、次にリフォームするときは、お前達用のドアの他に、天井にキャットウォークもつけてやるぞ」

我々は歓喜した。長年任務を遂行してきたのは、無駄ではなかった。

そして、やはり我々が仕えるべきはこの先代以外居ないと、確信したのであった。