グリフォン達が欠伸をしている。私がこの珍獣の世話をし始めてから、今日で3日目だ。
外の世界では絶滅したと思われている珍獣だが、鳥獣保護区の上、結界で長年守られているこの山には、まだ50頭ほどのグリフォンが生きている。
それでも、いつ絶滅してもおかしくない数だと言う事は、鬼火の私にだってわかる。
私が、仕事の手伝いをしていたアミュレット技師の魔女の女の子は、今新婚旅行に出かけている。
この山を越えた反対側の、ベルクチュアって言う国の山岳地帯に出かけて行った。
いくら私や、その女の子の執事が、一緒に家に住んでる仲だって言っても、新婚旅行についていくほど野暮じゃない。
しばらく暇になるから、何かアルバイトは無いかって聞いたら、グリフォンの面倒を見る仕事を1週間分もらったんだ。
グリフォン達は、一頭一頭の個体が識別できるように、首に名前の書かれたベルトをしている。
最初は番号で識別しようとしていたんだそうだけど、グリフォン達も馬鹿じゃない。変な番号の羅列は、呪文みたいに聞こえるのか、呼んでも無視するんだって。
反対に、個体に合わせた名前を呼ぶと、個体のほうから近づいてきたりする。
そう言う事から、グリフォンの名前を50頭分覚えた。
「アーサー」とか「レックス」とか「レミー」とか「ランス」とか。なんか、バタくさい名前の奴が多い。
誰が名付けたのかって聞いたら、仕事をくれた魔術師に、「グリフォンを保護始めた、闇の者が」って言われて、たぶん「人間に聞かれても普通に聞こえる名前」を選んだんだろうと私は想像した。
グリフォン達は、毎日、1頭につき5kgの肉を食べる。大した大食らいだ。
ある程度はグリフォン達も自分達で狩りをしているが、足りない分は、町で肉を買ってきたりして、グリフォンに食べさせる。
私は、人差し指程度の大きさの人間になら「変化」は出来るけど、体の大きさを変える術を知らないので、買い出しはグリフォンの管理人の魔術師に行ってもらってる。
食事が足りてないグリフォンの個体を見分けて、肉を配るのが主な私の仕事だ。
グリフォンにも力の優劣はあるから、力が弱く餌にありつけない個体に肉を与えても、力の強い個体が奪い取ってしまったりする。
そう言う所をよく観察して、食事の足りていない個体を、群れから離れたところに呼び出し、こっそり食事をさせなきゃならない。
アルバイトも今日で終わりという日、グリフォンの雄同士が喧嘩をし始めた。喧嘩の理由は、「どちらの名前のほうが由緒正しいか」だそうだ。
私のバイトを手伝ってくれていた、マリーナと言う名前の青い鬼火が、詳しく事情を説明してくれた。
話によると、「アーサー」が、自分は人間の世界の王の名前を付けてもらった、だからグリフォンは全て自分に服従すべきだと主張したんだそうだ。
それに反論したのが、「デュルエ」と言うグリフォン。デュルエは、そんなことを言うなら、自分はこの国の名前を付けてもらった、自分こそグリフォンの長に相応しい、と言い出した。
そんな陳腐な理由で、今、2頭のグリフォンは、流血沙汰の喧嘩をしている。グリフォンは鋭い爪と嘴を持っているので、一度喧嘩が始まると、あっという間にお互い傷だらけになるんだ。
人間である魔術師は、危険で近づけない。此処は、私がなんとかするしかない。
私は、鬼火の姿のまま、2頭の頭の周りをぐるぐる回り、空間に魔力を蓄積させてから、一気に「大量の海の氷水」を召喚した。
頭に血の昇っていたグリフォン達は、それこそ「冷や水」をたっぷり浴びせられて、一瞬動きを止めた。
「良いか、お前達!」と、私は2頭の間に割って入って言った。
「アーサーだろうが、デュルエだろうが、お前達は唯のグリフォンだ。外の世界に行ったら、動物園に入れられるか、剥製にされて博物館に入れられちまうだけのね!
この群れは、お前達を保護しようとした闇の者が作ったんだ。お前達が作ったわけじゃない。その中で、誰が長だ主だなんて、存在しない優劣をつけるな!」
私がそう言うと、グリフォン達はざわざわと小さく騒ぎ始めた。
自分達が「群れと言う集団」として集められた意味を、今まで理解していなかったようだ。
マリーナが心を読んだところによると、自分達を集めた闇の者を「王国の導」と呼び、餌をくれる魔術師や私を「自分達に服従する下僕」だと思っていたらしい。なんて失礼な奴等だ。
下僕に冷水浴びせられて説教されたら、そりゃ驚くだろうね。
アルバイトが終わって、給料を受け取った私は、山の中の岩屋に戻った。
私が仕事の手伝いをしている魔女の女の子の実家で、母親であるミリィって言う魔女と、父親であるリッドって言う闇の者が、一緒に住んでる。
魔女の女の子が結婚してから、リッドはまた放浪癖が再発したらしく、その時は岩屋にはいなかった。ミリィが言うには、「2~3年旅をしてくるって言って出かけて行った」そうだ。
付き合いが500年以上にもなると、2~3年留守にするのなんて、2~3ヶ月留守にするのと同じくらいの感覚なのかも。
それにしても、ミリィも母親だなんて思えない。だって、どうみても12歳か、多くても13歳くらいにしかみえない。
何か複雑な事情があるらしいけど、そんなに込み入った話にもあんまり興味はない。
私は、アルバイトの給料を「授業料」として渡して、ミリィから、人間大に「変化」する方法を教えてもらった。
その時、鬼火が長い間人間くらいの大きさに「変化」するには、強い魔力の供給源が必要だと言われた。
沢の近くに魔力を込めるのにちょうど良い石の採れる岩場があるらしいから、今度行ってみよう。
なんで人間くらいの大きさになりたいかって? プリンセスドレスって言うのを着てみたいんだ。鬼火が働く理由なんて、そんなもんだよ。
