ラナの休日 4

私は主に緊急事態を告げるため、ディーノドリン市上空にある一つの「視点」から魔力を飛ばし、ウィンダーグ家の避雷針に雷を落とした。

朝食中だったルディ・ウィンダーグはすぐに合図に気づき、食事の手を止めてナプキンで口を叩くと、すぐに書斎に来た。

既に、ほぼ出しっぱなしにされているノートパソコンを起動させ、ルディ・ウィンダーグは「トム・シグマ」の意識にアクセスしてきた。

私が文面で事態を説明すると、第2の主は「トム・ボーイ。レミリア達をその呪いから警護することを許す」と、期待通りの言葉を返してくれた。


ディオン山では、「ラナ」の視点が、刻一刻と迫っている危機を記録し続けていた。

リッドの口や耳、鼻や目から、「呪い」がリッドの体内に侵入していた。「呪い」からの操作と、自らの意思との間で、リッドは身を固くし、その体が小刻みに震えている。

「リッド、しっかりして!」と、ミリィがリッドの肩に手をかけて叫ぶ。

「ちき…しょう…。こいつは、だいぶ、ふざけた悪玉だ…」と、途切れ途切れにリッドが呻く。「俺に…レミーを…八つ裂きにしろとさ」

「『浄化』を起動するまで、持ちこたえ…」と、ミリィが言い、行動しかけた時に、リッドは自分の意思に反して腕を薙ぎ払い、その腕にはじかれたミリィは、岩壁に背中をぶつけた。

脊椎を打ったらしく、ミリィは崩れるように床に倒れこんだ。

「この…野郎…。リーザに…何、すん、だ…」と、抵抗の呻き声を発するが、「呪い」はリッドの震える体をじりじりと移動させ、テーブルの上のナイフを手に取らせた。

そして、レミリアの居る魔法陣の前に、ずるずると足を引きずって行く。

「レミー…。良いか、絶対に、魔法陣から、出るなよ…」と、リッドが呻く。「呪い」は、リッドの体を操作し、レミリアに向けて鋭くナイフを振るった。

レミリアは、とっさに顔を手で覆い、ナイフから目をそらした。

ギィン! と言う、金属にぶつかったような音がして、ナイフは宙ではじかれた。結界が起動しているのだ。

「呪い」は障害物を壊そうとするかのように、連続してナイフの打撃を続ける。

リッドが笑った。「お前風情に、この結界はこわせねーよ」

その時、「呪い」は、リッドをコントロールする方向を変えた。リーザこと、ミリィに標的を移したのだ。

抵抗するリッドの重い足を動かし、倒れているミリィに近づいていく。

「やだ。やだー! ミリィ、逃げてー!」と、レミリアは結界の中で叫んだ。

そして気づいた。動けないミリィが、必死にレミリアに目配せしているのに。レミリアは、結界の中に膝をついた自分の目の前にある水晶を見た。ミリィが見ているのはこれだ。

その時、ディーノドリン市の視点から、「警護許可」の伝達が来た。私は「ラナ」の視点から閃光のような魔力を送って、レミリアに「何をすべきか」を教えた。

リッドは、倒れているミリィの真横に来て、ガタガタと震えるナイフを振りかざそうとしている。

レミリアは、結界を起動させている水晶をつかみ、リッドに向かって力いっぱい投げた。

水晶は、リッドの頭にぶつかる直前ではじけ飛んだ。水晶に込められていた魔力が炸裂し、一瞬、リッドの意思が解放された。

ミリィを殺すために振り上げていたナイフの軌道が歪み、リッドは自分の意思で自分の腹にナイフを突き刺した。

「けっ。ざまーみろ…」と言ってニヤリと笑うと、リッドはあおむけに倒れこんだ。血は出ていないが、相当な衝撃があったらしい。リッドは腹にナイフが刺さったまま意識を失った。

私は、「ラナ」の視点から魔力を送り、リッドの体を占領してた呪いと、レミリアにかけられていた呪詛を解いた。

機能を失った結界から、レミリアが飛び出した。

ミリィに駆け寄り、泣き声で「大丈夫?」と何度も聞く。

ミリィはようやく起き上がれるようになり、岩屋の外から降り注いでいる私の魔力に気づいた。

「『月明かり』が、明るいみたいね」とミリィは言って、レミリアの頭を撫でた。


リッドの傷を治癒してから、宵の入り、3人は、レミリアが少女の幼霊を見た場所に行った。ミリィがランプを、リッドがつるはしを持っている。

そして、少女の霊が居たと言う場所の地面を掘り返し始めた。

土を掘り始めて間もなく、人間の白骨が出てきた。それも、一体ではない。無数の骨が、ぐちゃぐちゃに。

「私の姿は見せたくない、だからこの子の骨で隠して、だとさ」と、リッドは呪いに操られている間に聞いた言葉をミリィ達に告げた。

「呪いはもう一つあるはずよ」と、ミリィは言う。

「その通り。最初の子供を殺した犯人の霊魂も混じってる」と言って、リッドは無数の白骨の上に手をかざした。「まずは、この子等を消してやんねーとな」

そう言って、リッドは骨に「時間」を送り、白骨を土に帰した。

すると、レミリアが、「歌が聞こえる」と言い出した。「ほおずき。あかいみ。ぬまにしずめた…って言ってる」と、歌わずに呟く。

「たぶん道案内だな」とリッドは言って、「この辺りで沼って言ったらあの沼だ」と言って、3人は山を少し登り始めた。

15分も登ったあたりに、窪地があり、確かに沼があった。

「ここ、底なし沼よね」と、ミリィが確かめる。

「そうだな。最初の犯人から続いて、呪いにかかった連中は、どうやら全員この沼で投身自殺してるらしい。呪いにかかってる間、俺の頭にも、こいつが浮かんでた」

リッドはそう言って、「リーザ、『浄化』しておいてくれ…って、言うまでもなさそうだ」と、空を見上げた。

私は、事情が判明するとすぐにその沼の「浄化」を行なっていたのだ。

「なんとも、『月明かり』が明るい事で」と、リッドは呟いた。