Michele's story 15

木と石で作った鍬を持って、俺達は畑を耕していた。

森の中に畑を作るなんて非常識かもしれないが、木を切って、根を土からえぐり出し、拓けてきた場所に小さな菜園を作ることにしたんだ。

「ドナルド。お疲れ様」と言って、香ばしいナッツのにおいがする麻袋を持ったリナがコテージのほうから来た。

「半分まで耕せたかな」俺は言って、一緒に畑を耕していたエジソンとロビンに声をかけた。「おーい。一休みしよう」

まだ根っこを掘り出していない太い木の切り株に腰をかけて、俺達はリナの持って来た炒ったクルミを食べた。

腹の中から、力が戻ってくる感覚がする。

「リナ。育てられそうな野草や香草はそろってるのか?」せっかちなエジソンが、次の段階の話をし出した。

「ちゃんと、株を確保してあるわ。後は、畑に植え替えれば良いだけ」リナはてきぱきと答える。「それと、ムゥがベリーの木を見つけたの」

「なんのベリー?」ロビンが楽しげに聞き返す。

「ブルーベリーよ。ぎっちり実が成ってたって」とリナ。

「採って来ても、大丈夫な数はあるか?」と俺は聞いた。

「大丈夫。今、女の子達が、摘みに行ってるわ」リナは、力仕事でくたびれている俺達を励ますように言う。「次の晩御飯は、ブルーベリーが食べられるかもよ?」

「やったー! よぉし、さっさと畑作っちゃおうぜ!」ロビンは急にやる気を出して、クルミを5粒も食べないうちに、また鍬を持った。

「食ってすぐ動くと、腹が痛くなるぞ」俺は呆れたように声を返した。

ロビンは、「平気平気」と言って、鍬を振るい始める。

俺達3人は苦笑いし、少年がバリバリ働いてるのを見ていた。


コテージに戻ると、晩御飯は、期待通りナッツの他にブルーベリーが木の皿の上に添えられていた。

「種は噛まないで出してね。植えたら芽が出るかもしれないから」と、ケイトが言う。

「美味い! 甘い! すっぱい!」ロビンが大げさに感激していた。「別の味がするって良いもんだね」

「ムゥ、お手柄だったな」と俺が言うと、ムゥは少し照れたように、「エルミナが、生えてる場所を教えてくれたんだ」と言った。

俺達大人は顔を見合わせた。エルミナと言うのは、一番新参者の、ブロッサム…つまり、桜の樹のことだ。

エルミナと人間のように声が交わせるのは、不思議な力を持っているセシリアだけだ。

「セシリアから、エルミナの言葉を教えてもらったのか?」と、俺は聞いた。

「違うよ。エルミナって、話しかけると、ちょっとした仕草で答えてくれるんだ」ムゥは鈍感な大人達が気づかない、エルミナの「返事」について、事細かに教えてくれた。

それをざっとまとめると、エルミナが「はい」と答えた時は、花や葉を付けた梢が1回ざわめく。「いいえ」は3回ざわめく。

何かの方向を聞くと、その方向にある小枝が、ゆらりと横に揺れる。エルミナが全部の枝を動かすときは、別の木々と同じように、「誰かが来る」ことを知らせるのと、もう一つ。

「危険が近づいている時も、すごい勢いで枝がざわめくんだ」とムゥは言った。

俺達は、この世界に来てから、とんと「危険」に出遭ったことが無い。

「最近起こった危険ってなんだろう?」と話し合っていると、ムゥがしびれを切らせたように「ペディが躓いて、暖炉に手を置いちゃったことがあったじゃない」と言った。

「ああ、あれか」と、俺達はその時、オラウータンのペディが会議用のコテージで火傷をしたことを思い出した。

森の中で、一緒に暮して居た時は、いつも顔を合わせてる分、人間も動物も仲間意識は強かった。

だが、コテージを分けて、一時的にでも別々に暮らすようになってから、俺達…特に、野郎共は、動物達を意識の外に置くようになったらしい。

俺は、その事に気づいて、なんだか申し訳ない気分になってきた。

人間らしい生活を求めるばかりに、同じ運命の中にいる仲間を、「動物」だと思って自分達より価値のないものだと思ってるなんて、思いたくなかった。

だが、それは事実だ。

ライオンのライアンが来た何処かの「狭間」の出口のように、人間も動物も、平等に働いて平等に食事を摂るような生活だったら、そりゃ、ライオンだって二足歩行を始めてもおかしくないだろう。


俺はそれから、焚火の番をしていた管理人に声をかけた。

「なぁ、ミノル。ちょっと話があるんだ」

「なんだ?」と、管理人は火の様子を見ながら答えた。

「あー、動物って言ったら動物なんだけど、四つ足や羽のある連中とも、もっと親しくしたほうが良いと思うんだ」

「個人的に親しくするなら、自由だぞ」管理人は答える。「何か引っかかるところでもあるのか?」

「俺達…あんた以外の人間の男共のことだけど、俺達は、どうしても動物達を『人間より劣ってる』って見がちだと思うんだ」

俺は、自分が知らない間に、ずいぶんわだかまりを溜めこんでいたらしい。それを全部管理人に話すと、ミノルはこう言った。

「お前の意見は分かった。じゃぁ、アニマルズにも、畑の仕事を頼もうかな。もちろん、技術を身に着けられる奴からになるが」

「技術?」と俺は聞いた。

「ああ。鍬を持って、後足で立って、土を掘れるようになるまで、お前達で指導してやってくれ」

俺は、自分が普段行なっている動作も、一般的な動物達には少し難しいんだと言う事を忘れていた。

だが、言い出しっぺは俺だ。「分かった。任せてくれ」

それから、俺は率先して、前足の使える動物達に、鍬の使い方を教えるようになった。