動物達の中で一番小柄な、オラウータンのペディ用の鍬が出来た。
それから、ちょっと指が不器用な、ヒグマのワトソンのための、柄にぼこぼこしたとっかかりがある鍬も。
まずは、自然と後足で立てる動物達から、鍬の使い方を教え始めた。
ライオンのライアンは、教えられなくても普通に人間用の鍬を持って、2足歩行をして畑仕事をしている。
「みんなー。ライアンみたいに鍬が使えるまで、練習ー」と、ドナルドが先頭に立って動物達に声をかけて回った。
畑仕事くらい、俺達だけでも出来そうなものだが、ドナルドは「人間と動物が対等に暮せる世界」を夢見ているらしい。
確かに、仕事場は賑やかになった。柔らかくした畑の土で、幼い鳥獣類が遊び始めると、ドナルドが「ワーゼ達は、ちゃんと種をまいて」と指導していた。
「アタシタチダッテハタライテルワヨ!」インコのハイトーンを聞いて、俺の耳が痛くなる。
「タネタベチャダメ?」と、お腹を空かせた伝書鳩のルルーが言った。
「だめ」と、俺とロビンからルルーに叱咤が向く。
「あのー、エジソンさん?」と、ワトソンが声をかけてきた。「この取っ手、もうちょっとバランスが良く凹凸があるとつかみやすいんですけど」
「分かった。改良してみる」と言って、俺はワトソンの注文を聞きながら、でこぼこの位置を彫刻刀で調節した。
ペディは動きはスローモーだが、器用なので、すぐに鍬の使い方を覚えて、畑仕事に協力し始めた。
「準備出来てるかー?」と、管理人の声がした。コンドルのクアイが、苗を入れた籠を持って滑空してきた。
管理人のミノルが、籠の中身を説明した。「ブルーベリーと、香草と、野草、それから、ヒエとアワだ」
「ヒエとアワ?」と、畑に居たみんなが聞く。
「荒れ野でも芽を出す、丈夫な穀物だよ。潰してお湯でゆでて食べる」と、ミノルは答えた。
「お粥が食べれるの?」と、ロビンは乗り気だ。
「無事に穂がつくまで育てば、な」とミノル。
畑仕事がひと段落すると、俺達と鳥獣類は水場で手足を洗って、会議用のコテージに入る前に柔らかい麻布で手足を拭いた。
この取り決めも、ドナルドが率先して計画した。唯の体格の良い筋肉野郎だと思っていたが、意外と細かく頭が回るようだ。
一応は「会議用」として作られたコテージだが、食堂とキッチンも兼ねている。
その時の食事も、ナッツとブルーベリーだった。
再び火の番になったホナミも、腹が減るらしく、時々誰かに火の番を代わってもらっては、食事を摂りに会議用のコテージに来る。
「ホナミ。手の傷はどう?」リナが声をかけた。
「包帯がずれなきゃ、そこそこマシかな」とホナミは答えて聞き返した。「そろそろ、麻布も足りてきたと思うけど、まだ糸は必要?」
「今の所は十分よ」セーラが言う。「自分のお布団食べちゃう子がいるみたいだけど」
羊のドリーが不機嫌そうに答えた。「眠ってる間もお腹が空くんですもの。目の前に、食べられる草があったら、食べちゃうわよ」
「そう言う所を直して行かないとな」ドナルドが言う。「この世界は、言葉だけじゃなく、行儀や習慣だって学べるんだから」
それを聞いて、ミノルが何も言わずにニヤニヤしていた。
「なんだい?」と俺が聞くと、「今の台詞、俺の受け売り」とミノルが俺の耳に囁いた。
数週間が経ったのか、数ヶ月が経ったのかは分からない。だが、畑に植えた苗達は見事に土に馴染み、エルミナの葉が少し赤くなる頃には、最初のヒエとアワの収穫が出来た。
収穫を祝うため、初めてヒエとアワを調理した。
この時のために作っておいた、杵と臼を使って殻を潰し、脱穀した実を水で洗って食べられる部分と殻を分離させると、みんなで作ったでっかい焼き粘土の鍋でヒエとアワを煮込んだ。
香草をたくさん入れて、穀物と一緒に煮込んだら、良い匂いのするサラサラしたお粥が出来上がった。
「これ、ナッツのスープより美味いよ!」と、木の皿と木のスプーンで、サラサラのお粥をがっついているロビンが言う。
スプーンの使い方も、ドナルドが手本を見せながら鳥獣類に教えている。
蹄があるものと手が無いもの以外は、半ば強引に、慣れないスプーンで、お粥をこぼしながら食べ散らかしていた。
「掃除するのも手伝ってね」とリナに言われてから、動物達も真剣にスプーンの使い方を学ぼうとし始めた。
動物達にとっては、それまでの平穏を破られた散々な出来事かも知れないが、ケイトだけが、スプーンを使う動物達を見て、目を輝かせていた。
ある日、すっかりスプーンの使い方が行き届いた動物達と会食をしながら、ケイトはそっと何かをセーラに耳打ちした。
後から、その時なんと言われたのかを聞いてみたところ、「やっぱりここは不思議の国だったのね、だって」と、微笑みながらセーラが言った。
夢を観るって言うのは、原動力なんだな、そんなことを考えながら、俺は動物達用の仕事道具の発明に頭をひねっていた。
苗字がエジソンだからって、歴史上の発明家ほどの名案は浮かばないけどね。
