食事に困らなくなって来た私達の興味は、ファッションに移った。
麻袋のような服を作っていた段階から、ズボンを作るようになり、パジャマとして麻の服を着るようになったのは、だいぶ前。
最初に、女の子用の麻の服を作ろう、と言い出したのは、ケイトだった。
ずっと軍服姿のセシリアにも、気楽に着れる服を作ってあげよう、と言う発案だった。
「草木染をやってみない? 少しグリーンが入るくらいの色にするの」と、セーラが言った。
思い立ったら即行動。私達は、うっかり食べれる草を摘んでしまわないように、セシリアに聞きながら、草木染に適した草を集めた。
セシリアには、誰の服を作るのかは言ってない。サプライズのためだ。
布染めに良い草を探して森を分けいるうちに、見たことがあるような無いような、不思議な植物に出会った。
「セシリア、これは何?」と私は訊ねた。
「お茶の木だわ」セシリアは嬉しそうに言った。「なんでも生えてるのね、この森は…」
確かに、色んな植物の生えている森だが、見分ける目が無ければ、毒のあるものかないものかすらわからない。
「低温で炒ってカラカラにすれば、お茶が飲めるわ」と言って、セシリアは柔らかいお茶の葉を少しだけ摘み取った。
「ムゥ。お茶の木のある場所を、エルミナに教えておいてね」とセシリアは傍らの少女に言った。
「うん。だけど、私達の気配を追って来てるはずだから、エルミナはもうわかってると思うよ?」と、ムゥは答える。
よく働いて、頭の回転が速い超能力者が2人も。これは、良い人材に恵まれたわ、と私は心の中で思っていた。
Aラインのワンピースを作るのにちょうど良いくらいの染料を集めると、私達は柔らかいほうの麻の糸を機織り機にかけ、リネンの布を作り始めた。
私達が交代しながら機を織る様子を、セシリアは物珍しそうに見ていた。
布を草木で何度か染め、淡いリーフグリーンの布を作った。
それから、セシリアが休んでる時や、コテージを離れている時を見計らって、布を断裁し、少しずつワンピースを作って行った。
ワンピースの丈は、脛の真ん中あたり、袖は七分丈。クルミの殻で作ったボタンを取り付け、いよいよお披露目だ、と言う時。
なんの前触れも無くセシリアが作業中の女子のコテージに帰ってきてしまった。
私は、とっさに服を後ろに隠して、「セシリア。プレゼントがあるの」と言った。
セシリアが勘づかないうちに、私達はワンピースを見せて、「いつもありがとう」と言った。
淡いグリーンに染められたワンピースを見て、セシリアはすぐに事態を察して「私のために?」と聞いてきた。
「そうよ。さっそく着てみて」私はセシリアの肩にワンピースの肩をあて、寸法がぴったりなことを確認した。
新しい服に着替えたセシリアは、気恥ずかしげに微笑んでいた。「なんだか、高校生に戻ったみたい」
ムゥが、女子のコテージにそっと入ってきた。男の子達に、様子見を見に来るように言われたのだろう。
「すごく綺麗!」と言って、ムゥはセシリアのスカートの端をつかんだ。
「良いな良いな。私も、こんな服ほしい」と、ムゥは言う。
戦災孤児だったムゥは、確かにそんなに上等な服は着ていない。どちらかと言うと、布もくたびれてきて、ズボンは今にもほつれそうな部分もある。
私達は早急に次の仕事に取り掛かった。余った布をパッチワークして、5歳の子供になら着れる、小さなキュロットスカートを作った。
予想外の仕事だったが、私もケイトもセーラも、針と糸を扱うのになれていたので、仕事は滞りなくすんだ。
ムゥの話では、物見遊山の男子達と、「草木染」に興味を持った数匹の動物達が、コテージの前で待っているらしい。
先に、ムゥが外へ飛び出して行った。
「あ。ムゥがスカート履いてる」と、外からロビンの声がした。
「違うよー。キュロットだよー」と、ムゥはおどけて答える。「セシリアのは、もっとすごいよ」
誰かが手を叩き始めた。三拍子に合わせて、「は・や・く!」と言う男子達の声が聞こえる。
セシリアは、緊張しているようだったが、アンコールに応えて、扉に隠れるようにしながら、コテージの外へ出て行った。
ワンピース姿のセシリアを中心に、枝に花をつけたエルミナの前に全員で集まって、ホナミがカメラをセッティングするのを待っていた。
前にいる者は背を低くし、後ろにいる者は、石の上に乗った。
木製の三脚にカメラを固定し、「よし。タイマー10秒前」と言って、ホナミはケイトとセーラが場所を開けておいた、前列の真ん中にしゃがみ込み、カメラのほうを向いてVサインをした。
ジーッとねじの回る音がし、カシャッとボタンが押された。
私達の、最初で最後の記念写真は、ホナミに託された。
最初にこの「ホーム」を卒業したのは、ロビンだった。
ロビンはライアンから、愛用のカンナと、一人分の大工道具を受け取ると、「ホナミ。割と、お前のこと、好きだったぜ」と言い残して、ミシェルに連れられて別のホームへ「教師」として移住した。
次に卒業したのは、エルミナとムゥだった。その能力を買われて、幼い子供達だけが集まっているホームへ、「リーダー」として移住することになった。
ライアンがこのホームへ来た時のように、きっとあの3人から、自分の名前と、このホームの詳細な記憶は消えてしまっているのだろう。
だけど、私達は覚えている。あの子達が何処へ行こうと、あの子達は、私達の家族だ。
「リナ。お茶でも飲まない?」セシリアが声をかけてきた。そして、焼き粘土のポットに汲んできた水を、暖炉の火にかけた。「元気な子達がいなくなっちゃって、少し寂しいわね」
「そうね。でも、私達は、まだまだやらなきゃならないことがあるじゃない?」と、私は提案した。
「どんなこと?」と、セシリアが聞く。
「このホームも、まだまだ、不勉強な生徒は満員よ」と私は言った。
「そうね」セシリアも、私の言葉に同調した。「『あの子達』を、ライアンくらいに、自然に人間に溶け込めるようにしなきゃ」
「それだけじゃ足りないわ」
私は意気揚々と目標を掲げた。
「私達は、知恵を譲っていくことが出来る。このホームの『教師』は、もうライアンだけじゃないのよ。セシリア、協力してくれるわよね? このホームを、本当の『不思議の国』にするの」
セシリアは、くすっと笑うと、私に右手を差し出してきた。「協力させてもらうわ。私にできる事なら」
私はその右手を握り、笑い返した。
