Red Squall

レッドスコールと呼ばれている殺人鬼が、かつていました。

犠牲者は八つ裂きにされ、惨状は、まるで赤い雨が降ったかのようにみえるので、そう呼ばれていたのです。

その事件は、1度起きただけではありません。国中を巡るように、様々な場所で起こっていました。

警察が調べたところ、分かった共通点は、被害者が全員女性であること、必ず首を掻っ切られていること、犯行は深夜12時から午前2時の間に行われていること、

犠牲者は毎回必ず一人であること、日曜日には犯行が行われないことだけでした。

操作が進まない中、犠牲者は増えました。国のどこで発生するかわからないので、犯人は複数と思われていました。

共犯者達が、同じ条件を伝え合い、犯行に及んでいるのだろうと。


ある日の月曜日、また一人犠牲者が増えました。ですが、その現場は血まみれだっただけではなく、被害者の血で地面に「S」と書かれていました。

次の日の火曜日、また一人犠牲者が増えました。今度の現場にも、被害者の血で地面に「U」と書かれていました。

その次の水曜日、また一人犠牲者が増えました。その現場にも、被害者の血で地面に「N」と書かれていました。

その次の木曜日、また一人犠牲者が増えました。その現場にも、被害者の血で地面に「D」と書かれていました。

その次の金曜日、また一人犠牲者が増えました。その現場にも、被害者の血で地面に「A」と書かれていました。

その次の土曜日、また一人犠牲者が増えました。その現場にも、被害者の血で地面に「Y」と書かれていました。

その次は日曜日でした。ですが、警察は土曜日の深夜から、各地で警戒を怠りませんでした。

現場の全ての文字を合わせると、「SUNDAY」、「日曜日」、つまり日曜日に犯行が行われると予告しているのだろうと考えたのです。


ですが、土曜日の24時から日曜日の午前2時にかけては、それまで通り、全く犯行が行われませんでした。

警察は、念のためその週の日曜日が終わるまで、女性は一人で出歩かないことを義務付けました。

教会でミサが行われる時間になりました。キリスト教徒の女性達は、連れ添って教会に向かいました。

司教からの挨拶と聖歌隊の歌が終わった頃、一人の少女が突然席を立ちあがりました。

まだ5つにもならないような幼子だったので、周りの大人は「座りなさい」と静かに声を掛けました。

少女は大人の制止を聞かず、一点を見たままずっと立ち尽くしていました。

司教は、マイクから声をかけ、優しく少女をたしなめようとしました。

途端に、ハリケーンのような風が、少女を中心に教会中に吹き荒れました。

風のおこす真空が、女も男も聖人も信者もなく教会中の人間の首を掻っ切り、その体をずたずたに切り裂きました。

教会の辺り一面が、血染めになりました。

少女が呟きました。「魔女は…」

「殺さなくっちゃね…魔女は」と言って、薄い笑いをにやりと浮かべた少女の首を、真空の刃が掻っ切りました。

人形が倒れるように、少女は床に倒れ、息絶えました。


その事件を受けて、警察は訳が分からなくなりました。今までの「条件」と同じなのは、首を掻っ切られ、死体がズタズタにされていることだけ。

それも、教会の外の誰一人も悲鳴も騒ぎも聞いていないのです。そして同じ条件の犯行は、今まで事件のあった全ての地区の「教会」で行われていました。

今までの事件は囮だったのか? 悲鳴一つあげさせず、教会中の人間を殺すことができる犯人とは?

世間で様々な憶測が飛びました。ですが、警察も気づいていました。何処の教会にも、必ず首だけを切られた少女の遺体が1体だけ残されていると。

しかも、どの子供も、5歳に満たない幼子ばかりでした。この子供達が今までの犯行を行なったのだろうか?

そして集団自殺を? 一体どのように? なんのために?

警察にも、それは分かりませんでした。


読書灯だけをつけた薄暗い部屋で、パソコンの画面が光っています。椅子に腰を掛けた少女が、パソコンを見つめていました。

「終わったね」と、少女は呟きました。「これであなた達も還れるの?」

「終わったわ」と、パソコンの画面に文字が浮かび上がりました。「きっと還れるでしょう」

少女は手を机に手をついているだけなのに、パソコンのキーボードが自動的に押され、メモ帳に文字が表示されるのです。

「でも、キリスト教徒がいるのは、この国だけじゃないわ」と少女は言いました。

「それなら」と、文字が浮かび上がりました。「殺されたのも、私達だけじゃないわ」

「そうね」と少女は言いました。「さようなら」

「さようなら」と文字が浮かび上がりました。

少女はしばらく画面を見つめ、静かにパソコンを消しました。


レッドスコールは、また降り注ぐのかもしれません。何処かの国で。