最終年度を来月に控え、双子は全部の必修科目の単位を取り終えた。
後の1年は、卒業論文を書くための研究に使う予定だ。
レナは勉強のコースが分かれてから研究していた、古代と現代の各地の薬学についての考察と実験記録を論文にまとめた。
ルディはなんの論文を書こうか、しばらく悩んでいたが、古代の石碑に書かれた物語詩や各地に伝わる伝承を調べることにした。
出来れば、ルディはフィールドワークに出かけたかったが、ドキドキワクワクするのは後だ、とけじめをつけて、図書館の書籍の中に残っている様々な伝承の原文を読み解いて行った。
先に卒業してしまったルークとカルは、時々使い魔に手紙を持たせてルディ達にアドバイスをくれる。
今の「ローラングループ」のリーダーは、レイだ。
自宅で「要らない者」扱いされ、入学当時は気弱だったレイは、同じ闇の血を引く子供達の間で頭角を現し、メディウムとしても様々な能力を獲得して、10歳にして少年達を率いるようになった。
休憩時間、図書館にレイが来た時、ルディは「調子どう? リーダー?」と聞いた。
「やめて下さいよ」と、レイは慌ててルディを止め、小声で言った。「『アジト』でのことは、秘密でしょ?」
「そう言えばそうだった」さして悪びれた風でもなくルディは言って、クスクス笑った。
「ウィンダーグ先輩、最近も何かあったんですね?」レイがルディの疲労を察して言う。「少し、失礼します」と言って、レイはルディが左手首につけている青いビーズのアミュレットに触れて、力を送った。
力を増幅されたアミュレットが、ルディの周りに漂っていた「呪いの痕跡」を消滅させた。
「あれ。なんかすごく肩が軽くなった」と、ルディは言って伸びをして見せた。
「蜘蛛の残骸がまとわりついてたんです。浄化したので、しばらくは問題ないですよ」そう言って、レイは「アジト」に入って行った。
蜘蛛と言うのは、メディウムの間で「呪いをかけようとする者の気配」を言うらしい。
「一番必要なのはカリスマ性」と、ルディは以前ジュミから聞いた言葉を呟いた。
お昼休み、食堂でハムチーズサンドを食べながら、リムが早々に卒業論文をまとめたと聞いて、ルディは「何を研究したの?」と聞いた。
「古代のシャーマンが使ってた『神と対話する薬物』について」
と、リムはさらっと答えてから、ひそひそ声になって、「それと、闇の血を引く者への薬物の有効性について。これは秘密で研究してる」と囁いた。
レナとルディは生まれた時から病気とは無縁だ。人間の赤ちゃんなら必ずかかる病気にもかからず、呪いをかけられて体調を崩した以外は、風邪一つ引くことなく、今まで過ごしてきた。
少し調子が悪い等の時は、故郷の屋敷に出入りしている魔女であり薬師のシエラから、魔法薬を買い付けて使ったりしている。
「確かに、僕達は市販の風邪薬とか使わないけど…」ルディはそう言って、考え込んだ。「今の所の研究の成果は?」
「実際のパンパネラには使ったことないけど、ルーク先輩が作ってくれた使い魔に、色々な薬を試してる」リムはそう言ってから、「ルディに実験台に成れなんて言わないから、安心して」と付け加えた。
「うん。ありがと。僕も結構忙しいから」ルディは詳細は伏せた。
一番陥りたくないパターンが、ほぼ毎日、呪いや霊体の襲撃を受けていると言うことが、父親であるナイト・ウィンダーグの耳に入り、旅に出るのを止められることだ。
レナとルディは、呪いや霊体の襲撃を「修業」ととらえて、父母にはほんのやんわりと事情を伝えてある。
レナの魔術の先生でもあるシエラを通して、エクソシストの吸血鬼、ポール・ロドスキー氏から、自分達でも多少の襲撃ならかわせる装備をもらって、自分達だけで「敵」から身を守っている。
姉の魔力が上がってきたことも幸いした。どうしても、ルディ1人では撃退出来ない時は、レナが男子寮のルディの寝室に「転移」してきて、2人係で「敵」を追い払っている。
その日も、「敵」の攻撃を2人でしのいだ後、レナが言った。
「魔力の質からして、魔術を使っている者は人間ね。霊体を主に使って攻撃して来てるってことは、ネクロマンサーの可能性もある。きっと、このままラグレーラを離れても、私達を追って来るわ」
「迎え撃つだけじゃなくて、本体を攻撃することも必要ってこと?」と、ルディが問いただす。
レナは頷いた。そして心の声に切り替え、「今年の冬は、学校に残りましょ。父様と母様には、研究で忙しいって言い訳して。その間に、敵の本体を見つけ出すわよ」と弟に伝えた。
「分かった」ルディがそう心の声で答えた時、誰かがルディの寝室の扉をノックした。
レナは慌ててベッドの後ろに隠れた。ルディが、「はい」と答えて、扉を開ける。
そこには、片目を赤く光らせたレイが立って居た。「ウィンダーグ先輩。今、良いですか?」と、レイは真剣な顔で言う。
「今は…えーと…」と、ルディが言い訳を探していると、レイは「お姉さんが来てることも分かってます。僕達も、戦います」と、リムは言った。
レナがルディの意識を辿って「アジト」に「転移」すると、そこには30人ほどの闇の血を継いだ少年達が集まっていた。
レナが言った。「私達が一番気を付けなきゃならないのは、此処にこう言うグループがあって、誰がメンバーなのかを知られること」
その言葉を、少年達は真面目な顔で聞いていた。レナは続ける。「もし、私とルディの件にまきこまれたくない人が居たら、すぐに申し出て」
「そう言う人達は、既にグループから外れてます」と、レイが言う。「その時、『忘却』の魔術もかけました」
レイの手際の良さに感心して、レナは頷いた。そして少年達に聞いた。「これから、まず夫々の身の守り方を教える。覚悟は良い?」
少年達は、「もちろん」と口々に言った。
