Silver Keys Ⅳ 3

体術に自信のある者は、ルディから人体の急所と組手の方法を教わり、魔力の強い者は、レナから護身と夫々の役割のための魔術を、霊力の素質がある者はレイから、呪いを払う方法と回復の方法を教わった。

レイより1歳年上のネルは、霊力が強かった。魔術と霊力を応用して、「アジト」の中に呪いや悪意のある霊体の入って来られない結界を作ることに成功した。

レナから「力場を固定する方法」を教わり、ネルは「アジト」の中に油性ペンで紋章を描いて、霊力を固定した。

「これで、力を分散しても、消耗はしないはずよ」レナは言う。「本当は、もっと複合的な合成物で描いてあると良いんだけど」

「どうして?」と、ネルが疑問を問う。

「単純な物質であるほど、魔力で消すのが簡単なの」と、レナは説明する。そして、さっきネルの使った油性ペンで自分の左手の甲に一本線を引いた。

魔力を宿した手の平で、左手の甲をぬぐうと、油性ペンのインクは剥がれるように消えた。


数日後、レナを屋敷に召喚したシエラは、レナから「反撃の計画」について聞かされ、「分かった。じゃぁ、あたしも協力しよう」と言い出した。

シエラは実戦経験もある魔女だ。レナは心強い味方が出来た、と思って「ありがとう」と言おうとした。だが、礼を言いかけた時に、シエラが片手をレナの前に向けて、言葉を切らせた。

「レナちゃん。これは、私からの最後の授業でもある。無事にターゲットを発見し、抹殺できれば、私に教えられることは、もうない」

レナは、8つの時から8年間、ずっと「なんでも打ち明けられる先生」であり、父母同様に自分達の身を案じてくれていたシエラの存在を、とても大きく感じた。

「私達が強くなれたのは、シエラさん達のおかげよ」

と言って、レナは銀色のチェーンとチャームで出来たブレスレット型のアミュレットをシエラに渡した。「シエラさん用のアミュレット。私の最後の宿題。何点かな?」

強力な守護の魔力が宿ったアミュレットを見て、シエラは感心したようにため息をつき、「500点くらいかな」と答えた。


その冬、レナとルディは、用意していた理由を屋敷と学校に伝えて、学校に残った。

双子達より年下の少年達は、10名ほどが「外部部隊」として帰宅し、他の者達は、夫々理由を見つけて学校に残った。

レナが、自分の寝室に堅い結界を貼り、何度目かの、自分の未来の「予知」を行なっていた。

自分の未来を占うために予知の力に魔力を拡散すると、いつも同じ場所で何かが魔力を「攪乱」する。

だが、その日のレナは、外部部隊として帰宅した少年の一人、銀色の目のアゼルに、指示を出していた。レナが魔力を拡散するとき、呼応している「阻害者」を見つけるようにと。

かなり標高の高い山奥に住んでいたアゼルは、「千里眼」と「察知」の術を併用し、イーブルアイでディーノドリン市全体を見渡していた。

彼のいる部屋の中には、羊皮紙に描かれた市内の地図が置かれている。

レナの魔力が寄宿学校から拡散するのが分かった。何かが、市内の一角でギラリと光る。時計塔の上。どす黒い闇のようなものが、レナの魔力を阻害している。

アゼルは、市内の地図の時計塔の位置に、魔力の宿った鋭い針を刺した。「阻害者」がダメージを受けた手応えがした。すぐに視線を時計塔に戻すと、どす黒い闇が消えていくところだった。

レナは、目の前がパッと開けたような感覚を覚えた。観えた「未来」の映像は、真っ青な空と、真っ青な海。日が昇るところらしく、太陽の光がどんどん強くなる。

父親そっくりに成長したルディが、大荷物を持って隣を歩いている。レナも、多少の荷物を持って、海沿いを歩いているところだった。

「すっかり回り道に成っちゃったわね」と、今よりずいぶん成長したレナが言った。

「人助けだと思えば、軽い回り道じゃないかな?」と、ルディが言う。

「ルディったら、いつまでもお人好しなんだから」と、レナは呆れたように言う。「あの時だって…」

そこで映像は途切れた。

今のは、現実の映像じゃない、とレナは直感した。何かを予兆している、一種の予知夢だ。だが、自分達が「生存ルート」を辿っていると言う確信は持てた。

レナは外部部隊の「情報連絡係」を引き受けている、床屋の息子トーラに、伝心術で「阻害者は沈黙している」と合図を送った。

伝心術に長けたトーラは、すぐに外部部隊全員に「阻害者の沈黙」を伝えた。

外部部隊の少年達は、すぐに各家の自室に戻り、ディーノドリン市の地図を広げた。その地図の4隅には、「察知」の魔力を固定した魔法陣が描かれている。

地図を観ながらイーブルアイを使うと、時計塔から逃げて行く黒い靄の様子が少年達の目に映った。

「阻害者が逃げ出した!東に向かってる!」少年の一人が心の声で言った。トーラの伝心術を媒介して、少年達は会議室で話しているように情報のやり取りが出来た。

「阻害者に力を送ってるのは一人じゃない。何人か術者がいる」と、別の少年が言った。

「術の行なわれてる場所は…ディーノドリン署だ」と言った少年の心の声を外部部隊とレナが聞いて、皆が表情を険しくした。


ラスティリア地方の田舎町に、シエラの屋敷はある。天気予報の時間だ、とシエラは気づいて、テレビを付けた。

ディーノドリン市を映し出した映像を見て、シエラは唯の晴れ渡った市内の映像の中を、黒い雲のような霊体が移動しているのを観た。

「こいつは、学校内だけで済む問題じゃないな」とシエラは判断し、テレビを消すと電話の受話器をとった。まだ昼間だが、かつての戦友は起きているだろうか。

2コール目を鳴らさず、相手は電話をとった。「はい。エミリーよ」と、電話の向こうから少女の声が聞こえる。

「どーも。シエラだけど、事情はもう分かる?」と、シエラは聞いた。エミリーは、ケラケラ笑いながら、「大体把握してるわ。お金には成らないけど、ストレス発散の機会があるってね」と答えた。