Silver Keys Ⅳ 4

その日、レナは初めて、自らシエラの屋敷まで「転移」した。かなり魔力を使ったが、紅水晶のペンダントに込められたシエラの魔力を追って行ったら、自然といつも召喚される部屋に辿り着けた。

「レナちゃん。どうしたんだい?」と、シエラの驚いた声だけが飛んできた。恐らく、言葉に魔力を込めて、かなり遠い部屋から話しかけてきているのだ。

レナは少年達の見つけた情報を、短くシエラに話した。

「ふむ。大体事情は分かった」と、シエラは呆れたように言う。「ディーノドリン署と魔術と言えば、思い当たる節は嫌と言うほどあるよ」

「術を使っている者は、複数いるみたい」とレナが言うと、

「そりゃ、ダブルの魔力に勝とうとしたら、人間なら数人分の力が必要だからね」とシエラは言い、何かに気づいたように「此処にもお客さんが来るみたいだ」と続けた。

「シエラさんの居場所も突き止められたの?」と、レナは聞く。

「これは、レナちゃんの魔力を追って来てる可能性がある。最近、外で魔力を使ったりした?」と、シエラ。

「シルベットのオープンカフェで…ルディに呪い文を渡して来ようとした奴から、手紙を弾き飛ばして、手紙に『攪乱』の魔術をかけたわ」と、レナ。

「その時、魔力の質を覚えられたんだね」と言って、シエラはこう続けた。「レナちゃんは、すぐに学校に戻って」

「私も戦う」と、レナ言ったが、シエラは珍しく厳しい声でレナに告げた。

「こういう時は大人に任せな。あたしのほうも、ちゃんと援軍は頼んである。それより、学校が心配だ。指揮官はレナちゃんなんだろ?」

そう言われて、レナが「分かった」と言って頷くと、レナは「シエラさん、必ず生き延びてね」と言って、いつもの部屋からまた学校に転移した。

「お互いにね」と言うシエラの声を後に。


レナはいつもの「帰り道」である、ベッドの上に「転移」したが、それが幸いした。

ベッドを覆っている結界の外が、真っ暗だ。これだけの数の霊魂を呼び寄せたと言う事は、敵も消耗戦はやめたと言う事だろう。一気に片を付ける気だ。

「ルディ、聞こえる?」と、レナが伝心術を使うと、ルディの息を弾ませた声が聞こえた。「早く帰ってきてくれて、助かったよ。僕達も、人海戦術じゃどうしようもなくてさ」

「どのくらい前から、この状態?」と、レナは聞く。聞きながら、レナはイーブルアイを発動した。ベッドの周りの結界の光が見え、その向こうに憑代の位置を探した。

「20時を過ぎたくらいから。一気に押し寄せてきたんだ。魔術が得意な連中以外は、『アジト』に身を隠してる」

ルディは答えながら、同時に霊体と戦っているらしい。

「レナ! 天井よ!」と、ジーナの心の声が聞こえてきた。どうやら、レナの部屋に多数の霊魂達が集まっているのが分かったようだ。

レナがベッドの上を見上げると、光を放つステッカーを剥そうとしている、一匹のムカデが居た。こいつが憑代だ。

レナが、結界を透かして、憑代の周りに力場を作り、力場の中に「浄化」の魔術をかけた。

ダメージを与えられ、憑代は霊体を集める力を無くした。

レナは自分の方に集まって来た霊体全てを包みこむ結界を貼り、両手に雷の魔力を込めると、一気に放出した。結界内の隅々まで行き渡るように。

結界内を無数の雷の降り注ぐ音が鳴り響き、集まっていた霊体は粉々になって消滅した。

それを確認してから、レナは大きめの簡易結界を貼り、ルディの気配のある場所に「転移」した。

レナがルディと背合わせになると、ルディの間近まで迫ってきていた霊体が、簡易結果の外へ押し出された。

そこは、男子校の体育館だった。休暇中なので、幸い夜間就学の生徒もいない。

その体育館いっぱいに、黒い霊体が溢れかえっている。

ネルが霊力と魔力を併用した力を手の平から放ち、黒い雲のような霊体を切り裂いた。

「レナさん! レイに力を貸して!」と、ネルが言った。ネルが作った道の向こうに、時間をかけて霊力を練っているレイが居る。

「みんな、もう少しだけ持ちこたえて!」と、レナが伝心術で、戦っていた少年達に指示を飛ばすと、「了解」という返事が、体育館のあちこちから帰ってきた。

レナがレイに駆け寄り、向かい合って、レイの練ったエネルギーの塊に手を添えた。

そして、レナが自分の魔力と霊力を追加すると、レイが胸の前で向い合せていた手の平の間で、破裂せんばかりに「力」が強くなった。

「伏せて!」と、レナが伝心術で指示を飛ばした。少年達は、一瞬無防備になることを覚悟して身を伏せた。

その途端、何かが炸裂するような音がして、体育館の一帯を、術を使えるものにしか分からない白い閃光が走った。

光が消えると、密に集まっていた霊体達は掻き消えていた。

レナとレイが、同時に周囲を見回す。「一匹残らず消えたようね」と、レナ。「ありがとうございます。僕一人じゃ、ここまで強力な力は練れなかった」と、レイ。

「日々は常に修業よ?」と言って、レナはレイにウインクをして見せた。


その頃、シエラは屋敷を出て、夜光草の生えている墓地に向かっていた。何者かの気配は、ずっとシエラを追ってくる。

その気配がじりじりと近づいてくるのに勘づき、シエラは墓地まで「転移」した。

墓地には、覚えのある魔女の気配がする。

「エミリー。悪い、遅くなった」とシエラは言った。

「居眠りしちゃうところだったわよ」と、墓地の一角にある木の上からエミリーの声がした。「それで、お客さんは何人?」

「ざっと50人」とシエラは言う。

「ちょっと物足りない数ねー」と、エミリーは木からふわりと降りてきて言う。「せめて300人は欲しかったわ」

「どれだけ暴れる気なんだよ」シエラはおかしそうに言ってから、表情を引き締め、墓地の周囲を見回した。「なるほど。囲んでくるか」

「それならそれで、術もかけやすってもんだわ」エミリーは言って、「まず10人は潰しましょうか」と、楽し気に人差し指を「標的」に向けた。


レナは女子の寄宿舎に戻ると、殺さずに捕らえておいた『憑代』から、魔力の気配を追った。

軸としてあるのは人間の魔力だが、纏っている霊体の数が膨大だ。その中に、原形の分からない「闇の者」の気配を感じた。

「追跡」をやめ、テーブルの椅子着くと、レナは「予知」に魔力を拡散して、タロットを切り始めた。