「古き者が憑代を求め、目覚めたの者が生きながら贄となって居る。贄はさらなる贄を求め、飢えはさらなる飢えを求める。命をつなぐなら力ある物に頼むと良い。お前の親愛なる者が知っているだろう」
レナは、占いの結果をそう読み解き、「親愛なる者」が誰かに考えを巡らせた。
ふとテーブルから目を上げると、枕元に置いておいた書きかけの手紙が目に入った。「親愛なる父様…」までが書かれている。
「最終的には、相談しなきゃダメか」と呟いて、レナは手紙をテーブルに持ってくると、続きを書き始めた。
速達で送られて来たレナからの手紙を開封して、レナとルディの父親であるナイト・ウィンダーグは、この冬に子供達が帰って来なかった本当の理由を知った。
そして、ナイトは過去にあったディーノドリン署と自分の間柄の経緯を、返事の手紙につづった。
「昔お前達にも話したが、ミスター・オークランドには孫娘が居た。私が覚えている限り、名前は『ステファニー・オークランド』。もし人間達を使って何か仕掛けてくるとしたら、彼女だろう」
その後日、エミリーとの話し合いの時に、ナイトは愚痴った。「とうとう、うちの子供も親に隠し事をするようになったよ」
「その子達のおかげで、最近楽しいパーティーがあったばっかりよ」
エミリーはローブのフードを被ったまま、ニヤニヤしながら言う。
「その時の連中は、魂も残さず消滅させたけど、シエラが屋敷を知られちゃったから、近いうちに引っ越すそうよ」
「子供から、命の危機まで知らされないとは、私の信用も失墜したか」と、ナイトは嘆く。「だが、事後報告であっても、何も教えられないよりマシかな」
「独立心豊かな子供達で良いじゃない」エミリーは老婆の声で言う。「まぁ、親としては正確な情報はほしいでしょうね。子供達も、学校にいる間は、フルパワーで暴れられないでしょうから」
「卒業したら、フルパワーで暴れろと?」と、ナイト。
「若いうちは、はしゃいでおくべきよー?」エミリーは気楽に言う。そして、庭の見取り図の一部を指さして、「それからこの辺りに夜光草植えさせて」と言った。
「父様。今まで黙っててごめんなさい。私達も、一々連絡するのが面倒になるくらいの大忙しだったの。昨日、かなり大規模な霊体の襲撃があって、男子寮の男の子達と一緒に撃退したわ。
敵はディーノドリン署から、複数の人間の力を使って学校に霊体を送り込んできてる。その襲撃が片付いた後、敵の正体を占ってみたら、なんだか複雑な結果が出たの。
私が読み解いた、そのままの結果を伝えるわ。もし、父様に思い当たる節があるなら、その人に協力してもらいたいの。今度は、私達が攻撃する番だから」
レナの手紙を読んでいくと、下の方に占いの結果らしき文章が添えられていた。
誰がどう教えなくても、敵がいる以上、戦い方と言うものは覚えるものなのだなぁと思いながら、ナイトは書斎で、自分の人脈に居る『力ある者』を思い浮かべた。
本棚から、住所録が飛んできて、後ろの方の開いているページが開かれた。
そこには、以前受け取った、さる遠縁からの手紙が挟まっている。
「こいつになるか…」と、ずっと前にも呟いた様な、諦めとも悩みともつかない言葉を呟き、「問題があるわけではないが、どう言った人選なのかは、あえて聞くまい」
そう言って、ナイトはさっそく旅支度を始めた。
毎日交代で、ディーノドリン署を見張っていた外部部隊から、レナに伝心術で知らせが届いた。「定期的に、ディーノドリン署に出入りしている魔女が居る」
「外見は?」と、レナが心の声を返す。答はすぐに戻ってきた。「ブロンドとシアンの目の20歳くらいの女の人。魔術で、毎回自分を別人に見せてるけど、中身は全部同一人物」
「反魔術を使ってる様子は?」と、レナは次の質問をする。
「この人自身から、反魔術の気配はしない。でも、この人…ものすごい数の贄の魂を連れてる。その魂が、『攪乱』と、ほぼ同じ効果を出してる」
「分かったわ。みんなは、すぐに『隠れ』て」レナは指示を送った。
レナは、父親から聞いていた日記の話と、最近届いた返信で、そのシアンの目の女性が「ステファニー・オークランド」だと気づいていた。
今までシエラの屋敷に「召喚」されるときに、媒介となって居た紅水晶のペンダントを手に取り、レナは呟いた。「シエラさん、本当にお別れかも知れないわね」
そう言って、レナは紅水晶のペンダントにかかっていた魔術に、改良を加えた。
ステファニーは、自宅の一室に作った「解剖室」で、新たな贄を屠っていた。今まで蓄えていた膨大な魂は、一昨日の襲撃の時に使い果たしてしまった。
一気に決着をつけるつもりだったが、予想外に「向こう」も複数人の味方がいるらしい。ターゲットである双子に致命傷を与えられないまま、多数の魂達がステファニーの「意思」を離れ、浄化されてしまった。
こちらが決定打を受けたのが、霊力と魔力の混合したエネルギーであることは分かった。
魔力でダメージを受けるならわかる。だが、何故人間である自分の操っている霊魂達が、霊力に影響されるのか。その点は、ステファニーも疑問だった。
ステファニーに「悪意」は無かった。唯、世界を救う尊い任務として、力を溜め、戦っているだけだ。
みんな騙されているのだ。あの吸血鬼、ナイト・ウィンダーグに。
贄の返り血を始末していると、ドアフォンが鳴った。「はい。オークランドです」と、ステファニーは何食わぬ顔で受話器をとった。
「ステファニー・オークランドさんですか? お届け物です」と言う声と、ドアフォンのモニターに配達員の姿が映る。見たところ、ただの人間らしい。
ステファニーは、宅配便を受け取り、居間に行った。
差出人の名前は書いていないが、送り主の住所にディーノドリン署の所在地が書かれていたので、ステファニーは箱を開けてみた。
魔力で封印されているわけでもない、害のある呪いがかけてあるわけでもない、自分を守っている「何か」も、何も囁いてこない。
中身は、魔力の宿った紅水晶のペンダントだった。
