Silver Keys Ⅳ 7

レナとルディ達は、休暇が終わろうとしている前に、着々と準備を整えていた。体術が得意な者も霊体と戦えるよう、魔力を宿したグローブと膝につけるサポーターを人数分用意した。

相手が死霊使いなら、霊力が強い者も、魔力が強い者と対等に敵と戦える。

深夜の男子校の体育館にこっそり「アジト」のメンバーが集合した。レナも一見女の子だと分からないように、長い髪を縛り、ルディの制服を貸してもらって男装している。

「外部部隊には、合図をくれるように指示してある」とレナが少年達に言った。「さっき、ターゲットがディーノドリン署に入った。遅くても、今夜中に仕掛けてくる」

レナがそう伝え終わるのを待っていたように、レナの耳に「術が始まった!」と言う心の声が聞こえた。

「来るわ。ネル、レイ、準備は良い?」と、レナが聞くと、定位置についていたネルとレイが「もちろん」と答えた。

レナ、ネル、レイが3点に向かい合って、両腕を伸ばして互いの手を向い合せ、魔力と霊力の混合した大きな力場を作ると、レナが「召喚」のスペルを唱え始めた。

霊体を操っているはずの、ステファニーを呼び出すのだ。魂だけではなく、体ごと。レナは、ステファニーが正気を取り戻していることに、一抹の願いをかけていた。

術者達にしか分からない、雷光のようなエネルギーが解き放たれ、力場の中にステファニーが現れた。だが、様子がおかしい。

地面に膝を折り、倒れそうになる体を両手で支えながら、焦点の合わない虚ろな目を泳がし、小さな声で「破邪」のスペルを唱えている。

父母の霊魂さえも従えていた「意思」を失い、ステファニーの魔力は混乱していた。纏いついていた死霊達に憑依されるのを、辛うじて避けるだけの力しか残っていない。

ステファニーが「何か」と呼んでいた闇の者の魂が、体育館に次々と集まってきた。

レナは、「生きながら贄になっている者」が、ステファニーであると確信した。

レナが素早く持ち場を離れ、ステファニーに近づいたのを合図に、少年達は霊体に立ち向かい、死霊達との戦いが始まった。

この闇の者の霊体達は、もはや憑代としてどころではなく、ステファニーの体に完全に憑依するために集まってきているのだ。もう一度命を得るために。

「ステファニー」と、レナは呼びかけた。

魔術着姿のステファニーは、薬物を投与されているらしく、今にも眠り込みそうだ。レナは、レイに伝心術で指示を飛ばした。「レイ、すぐにこっちに来て!」

呼ばれたレイは、まさに瞬時に、ステファニーを介抱しているレナの隣に「転移」した。

「レイ、この人の意識を覚まさせることは出来る?」と、レナ。

レイはステファニーの様子を見て、「一時的になら」と答えた。「でも、意識を覚まさせる霊力を行き渡らせるのには数分かかります」

「お願い。私が時間を稼ぐ!」と言って、レナは胸の前で向い合せた手の間に魔力を走らせ、エネルギーの塊を作ると、近づいてくる死霊達を撃墜して行った。


少年達が死霊を撃退している中、ルディは「とどめ役」として、ナイフ型の霊剣を振るっていた。

体育館中を、羽を使って飛翔しながら文字通り飛び回っているので、消耗が激しい。だが、ルディ専用の霊剣を他の少年に渡しても、効果を発揮しないことは分かっている。

此処は、僕が出来る限り粘るしかない。ルディがそう覚悟を決めた時、死霊に手首をつかまれた。

しまった。とルディが思った瞬間、何処かで銃声がした。

弾道に霊体を貫かれた死霊達が、悲鳴を上げながら消滅していく。ルディの手首をつかんでいた霊体も、銃撃を食らって消滅した。

イーブルアイを発動していたルディには、その弾丸に呪文が刻まれているのが見てとれた。

そして、その弾丸が飛んできた先を見ると、思わぬ人物が立っていた。

「あなたは…」と、ルディ達男子が息を飲んで言う。「食堂のおばちゃん!」

確かに、そこには、いつも男子校の食堂でサンドイッチを売っている、白髪をお団子に結った、眼鏡のおばちゃんが居た。片手にマガジンのついた銃を持って。

「ルディ様! レナ様の援護を!」と、しわがれた老婆の声で食堂のおばちゃんが指示を飛ばす。「雑魚は私が始末をします!」

何故自分達が食堂のおばちゃんに「様」づけで呼ばれるのか分からないまま、ルディは言われたとおりに、死霊達の襲撃をかわしながら、ステファニーを挟んだレナの背後に飛翔した。

二人がかりなら、集中して襲ってくる死霊から数分を稼ぐのも楽だった。

二人の後ろでは、レイが、ステファニーの額に当てた手から、高圧の霊力を彼女の全身に送っている。

「霊体に…癌が出来てる」と、レイは呟いた。「この人、今までどれだけ贄を殺してきたんだ…」

一瞬迷いが生じたが、今は一刻を争う時だ。レイが、最後の仕上げに、少し強めの霊力を送って、ステファニーの意識を起こした。

ステファニーはカッと目を開き、辺りを見回してすぐに事態を察した。それまで小声で呟いていた「破邪」のスペルを、言葉に魔力を込めて声高く唱える。

集まって来ていた死霊が、全て体育館の外に弾き飛ばされた。レナと、魔術を得意とする少年達が、追い打ちをかけるように「浄化」の魔術をかける。

水蒸気爆発のような音がして、集まって来ていた死霊は粉々になった。

一瞬、少年達が気を抜きそうになると、「まだだ!」と言う、外部部隊の心の声が、夫々の頭の中に響いた。「ディーノドリン署では、術が終わってない! まだ、死霊が集まってくる!」

「私を殺して!」と、ステファニーが言った。「組織が狙ってるのは、私よ! この体が無くならない以上、奴等は死霊を送り込んでくる!」

「そんなこと…出来ないよ」と言って、ルディが困った顔をすると、ステファニーはルディの手から霊剣をひったくり、自分の胸に刃を向けて、心臓を貫こうとした。

ルディは、人間を超えるスピードで移動し、ステファニーが胸に刺そうとしていた刃を、片腕に受けた。

「早まらないで。僕達は、君の死なんて望んでない」と、ルディは片腕にナイフが刺さったまま言う。「死霊が寄り付いて来なきゃ、それでOKさ」

ステファニーは腕を振るわせ、霊剣から手を離すと、意識を失って倒れた。

パチパチと、何処かで拍手が聞こえた。ルディが振り返ると、食堂のおばちゃんが手を叩いていた。「全くです。その通りですよ」

「食堂のおばちゃん…。あなたは、何者なんですか?」と、ルディが腕からナイフを引き抜きながら言う。

「ちょっとした訳知りのババアです」と言って、食堂のおばちゃんはルディ達に背を向けると、「後は大人に任せなさい」と言って、体育館から去って行った。