Silver Keys Ⅳ 8

ディーノドリン署の会議室で、死霊を集める儀式を行っていた者達が、異変を感じた。一人、また一人と、術者たちが何処かへ「転移」されて行く。

術を行なう間、ちゃんと結界は張ってある。だが、そんなことはお構いなしに、最後の一人が何処かへ消えた。

「56名。先日、始末したのが50名ほどとなると、約100名ちょっとしか居なかったことになるな」と言う、青年の声がする。

最後に「転移」された者は、気づくと手錠をはめられ円陣の一人になって居た。

左右を見回すと、さっきまで儀式を行っていた術者達が後ろ手に手錠で縛り上げられ、ウィンダーグ家の玄関ホールの中央に、円形に座らされている。

囚われた術者達を囲むように、数人の「威圧的な魔力」を持った者達が、佇んでいる。

さっきの声の主である、アッシュグリーンの目をした青年が言う。「さて、約18年前、私はお前達に質問をしたな。クルー?」と、冷ややかな目で術者達を見下ろしながら、青年は言う。

「生きるか死ぬかを選べと」

「わ、私達は雇われただけなんだ!」術者の一人が叫んだ。「あの女…ステファニー・オークランドに!」

「そのステファニー・オークランドを殺すための術を使っていたのは何故かしら?」と、氷のような微笑を浮かべた、黒髪の15歳くらいの魔女が、イーブルアイを光らせながら言う。

「調べならついてる、が、あんたたちの常套句だろ?」と言いながら、クリムゾンの髪をした金色の目の魔女が、汚らわしいものを観るような眼で術者を観ている。

「片づけるなら、さっさと始めよう」と、巨大なボーガンを肩にかけた、帽子をかぶった痩身の男が言う。

「エンダー、甘いわよ」と、黒髪の魔女がニヤリと笑む。

そして術者達を見て、「もちろん、これからどんなことが始まるかは、わかってるわよね? あなた達も得意でしょ? 簡単に楽になれない方法で『始末』するのは」と言った。

「待って!」と、玄関ホールの2階から、別の女性の声がした。

「部屋に居ろと言っただろ?」と、アッシュグリーンの目の青年が、その女性に言う。

「こんな時、どんな対処をすれば良いかは、分かってるわ。私だって、元は一般市民ですからね」

と、亜麻色の巻髪を結いあげた上品な服装の女性が、階段を降りてきて、術者達の服装を見た。

一番上等なスーツを着て、胸に署長のバッジを付けた刑事を選び出し、胸ぐらをつかむと、その分厚い頬めがけて、盛大な音が鳴り響く平手打ちをした。

署長のバッジを付けた術者は、頬に真っ赤な平手の痕を付けられ、物悲し気に顔をくしゃくしゃにした。

巻き髪の女性が、ツッカツッカと階段をのぼりながら言った。「一人残らず地獄に送りつけてやって」と。

「承知した」とアッシュグリーンの目の青年が応え、その場にいた「威圧的な」大人達が拍手をした。


病院に収容されたステファニーは、意識を取り戻さないまま、眠り続けていた。

夕日も暮れる頃、レナが見舞いに来た。レナは、ステファニーの命がそう長くないことを知っていた。彼女に治癒の術をかけたレイが、霊体に癌があることを教えてくれたのだ。

もし、ステファニーが意識を取り戻したら、なんと声をかけようか迷っていた。理由がどうあれ、親元を離れてからずっと命を狙ってきた相手だ。レナが何を言っても、彼女には届かないだろう。

「邪魔するよ」と、聞き覚えの無い声がした。鮮やかな赤毛の、13歳くらいの少年が、花束を持ってステファニーの病室に入ってきた。

「あなたは?」と、レナが聞くと、少年は、「あー、ちょっとしたことを、あんたのパパに頼まれてね」とレナに言って、ステファニーを見た。

「なるほど。風前の灯火って感じだな」と言って、少年はステファニーの肩に手をかけた。

「待って。この人を殺さないで」とレナは懇願した。

少年は、目をぱちくりさせ、にやっと笑うと、「殺す? ちょっと違うな。まぁ、今の状態でなくなるって意味では、殺すって事かな」と、なぞなぞのような答えを返した。

「霊体の癌は、贄から受ける継続的なダメージが原因だ」と、少年は短く説明した。「もし、そのダメージを消滅させることが出来たら? それと、もし…」

赤毛をくしゃくしゃとかきながら、少年が「術」を発動した。

「人生を一からやり直せる可能性があるとしたら?」

肩にかけた少年の手を伝って、何かが、ステファニーの体から吸い取られて行く。

エネルギーの発光を感じて、レナは目をしかめ、片手で目の前を覆った。

「やっぱり病人は、珍味の一種だな」と言う少年の声が聞こえた時、ベッドにはもうステファニーの姿は無かった。


タオルで包んだ丸裸の赤ん坊に、レナのお古の産着を着せると、サイズはぴったりだった。

ウィンダーグ家で、赤ん坊の身支度を済ませたリッドは、「じゃぁ、俺達は、日が昇らないうちに帰るぜ」と、赤ん坊を抱えて言った。

「連れのお嬢さんに、赤ん坊の世話は出来るのか?」と、ナイトは聞いた。

「任せとけって。あいつも、冗談で500年生きてるわけじゃない」とリッドは言う。「魔力を持ってるなら、ちゃんとした教師は必要だしな。良い弟子になるさ」

そう言って、リッドは赤ん坊と一緒に灯りの無いウィンダーグ家の庭から、羽を使って空に飛翔した。「あの茶くみ人形って言うの、意外と美味かったぞ」と言い残して。


無事卒業式の日を迎えたレナとルディは、同じく無事に卒業できたリムに、卒業証書と手紙を屋敷に持って行ってくれるように頼んだ。

「構わないけど…。ご両親には、なんにも言わずに旅に出るの?」リムは心配そうだ。

「大体のことは手紙に書いてあるわ」レナが言う。

「いつ帰ってくるか、決めてある?」と、リムは聞いた。

「いつになるかは分かんない。たぶん、リムがおじさんになる頃かな?」とルディは冗談を言って、サバイバルに必要なものがぎゅうぎゅうに詰まったザックを担いだ。

「辛気臭い顔は見せないほうが良いわよ」と、自分の卒業証書を持ったジーナが、リムに言う。「せっかく、レナ達の長年の夢が叶う時なんだから」

「うん…。じゃぁ、元気で」と、リムは泣き出しそうな顔を無理矢理笑顔に変えた。

リムとジーナに別れを告げた後、レナとルディの耳に、数十人の少年達の大声が聞こえてきた。「せーの。ウィンダーグ先輩! 行ってらっしゃい!」

それは、あの日、共に戦った少年達の声だった。振り返ると、校舎裏のフェンス越しに、少年達が手を振っていた。

「また逢いましょ!」とレナが声を返し、ルディと一緒に、皆に手を振った。


ある日、事務所の屋上にある空中庭園の手入れをしていた、エクソシストのポール・ロドスキーは、変わった模様のネズミが庭園に居たので、ブラシの先で追い払った。

タキシード柄の猫と言うのも居るらしいから、スーツ模様のネズミと言うのも、居てもおかしくは無いのだろうか?

そんなことを考えながら、ポールはネズミ捕り用チーズを、庭園の片隅にそっと置いた。