Tale's talk 1

父さん。俺、たぶんどこかおかしいんだと思う。トリルっていただろ? 俺に、人間の言葉を教えてくれた。

この間の秋頃に、トリルはこの山を出て、人間の街で暮らし始めたんだ。

それから、なんだか妙に落ち着かない気分なんだ。

話し相手が居なくなったからかも知れないと思って、トリルの父さんとも話したんだけど、その時も、俺、トリルのことばっかり話してた。

トリルが何処に行ったのかはっきりわからないけど、もしはっきり分かってたら、俺は連れ戻しに行くかもしれない。

魔女が、独り立ちをする仕来たりを受け継いでる種族だって言うのも分かってる。

トリルにはトリルの仕事があって、俺に邪魔できる物じゃないって事も分かってる。

唯の話し相手なら、父さん達だって、ピューターやルオンだっているのも分かってる。

今は、だいぶ人間の言葉も分かるから、もっと勉強したければ、トリルの母さんに頼めば良い事も分かってる。

それなのに、俺はどうしてもトリルのことばっかり考えてる。

沢を渡る時だって、トリルだったらどうするだろうって思ったり、鬼火達が騒いでるときは、トリルにはあの水晶を渡したから大丈夫だって、勝手に安心したりしてる。

やっぱり俺、どこかおかしいんだ。


この間の話、ピューターに相談してみた。ピューターのことは教えて無かったかな。パン神族のピューターだ。牧羊神の血を継いでる…。

ピューターは、「そう言う気持ちになるのは、トリルに向けてだけか?」って聞き返してきた。

俺が、「他にはいない」って答えたら、「ならいいや。ララは俺のものだから」って言うから、「どう言う意味だ?」って聞いたんだ。

そしたら、ピューターはいつかララを「嫁」ってものにもらいたいって思ってるらしい。

「嫁ってなんだ?」って聞いたら、ピューターは、「トリルの父さんと母さんが居るだろ? あの、母さんのほうの役割を引き受けてくれる女性のことだ」って教えてくれた。

ピューターは、昔から人間の習わしに興味があって、子供の頃から魔術師や仲間達から、人間の暮らしぶりを聞いていたらしい。

人間って言うのは、お互いに、自分の心を預けられる存在が現れたら、一緒に同じ家で暮らして、生活の役割を分担しながら、協力して種族を守っていくものなんだそうだ。

トリルが小さいうちからあんなに頭が良かったのも、知識を率先して教えてくれる父さんと母さんが居たからだって。

俺がトリルに固執するのも、自分の心を預けられる存在だって思ってるからだって、ピューターは言ってた。

「そういう時は、男のほうから、ちゃんと女に『申し込み』をするんだ。決定権があるのは女の方」って言って、ピューターはフルート吹いてた。

ピューターは、祭でララと共演するのが夢らしい。

「夫婦で祭のフルート使いなんて、なんとも粋な家庭だろ?」ってピューターは言ってたから、「家庭」ってものが何か、トリルの父さんに聞いてみようと思ってる。


トリルの父さんは、「『家庭』って言うのは…ホームのことだな」って言って、それ以上は教えてくれなかった。

「ホーム」って何かって? うーん…。「家」や「故郷」って意味らしい。「帰る場所」って事かな。

ピューターは、ララと暮らすことを「家庭」って読んでたから、心を預けられる誰かと住む場所を「ホーム」って呼ぶんだと思う。

冬至の祭が近いから、ルオンがまた旅から帰ってくるかもしれない。そしたら、「ホーム」についてもっと詳しいことを聞いてみる。

ルオンは人間だし、ちゃんとした魔術師だし、大人の男だから、「申し込み」とか、まだ分からないところも教えてくれるかもしれない。


ルオンと話してきた。「難しいことに興味を持ったね」って言われた。ルオンは少しずつ酒を飲みながら話してたけど、あいつは酔っ払わない奴だから、はっきり答えてくれた。

「心を預けられる存在って言うのは確かだけど、君はまず、女性を支えられる『能力』を持たなきゃならない」って。

「どんな能力があれば良いんだ?」って聞いたら、「女性を守れる能力さ」ってルオンは言ってた。

「君は、鬼火とも精霊とも闇の者とも魔術師とも話が出来る。このスキルを活かした職業に就くのが最初の目標だっただろ? まず、その仕事を始めてみるんだ」

ってルオンに言われて、俺は最初の目標も忘れてたことに気づいた。

「それから、多少の機敏さと腕っぷしと、怯えない強い心。これがなきゃ、どんな女性も『申し込み』には答えてくれないぞ?」ってルオンが言ってた。

父さん。俺も、仕事はじめるよ。もう11だから、今から鍛えれば、言葉だって忘れないし、体だって強くなると思う。


トリルの父さんに、「通訳の仕事を始めたいけど、どうすれば良いだろう」って相談した。トリルの父さんは、久しぶりにまともに話してくれた。

まず、老いた魔術師達の荷物持ちをする仕事をもらった。それから、その魔術師の弟子だって言う、子供の魔術師と闇の者の通訳をした。

その老いた魔術師は、「修業の浅い子供を連れ歩くのは、私だって不安なもんだよ」って言ってて、子供の魔術師も、まだ闇の者に対する礼儀もほとんどわかんない風だった。

ゼネル鳥に遭ったら、絶対目をそらしちゃいけないってことだって分かってないんだからな。あれにはまいったさ。

これはゼネル鳥のほうが分かってて、俺が「目を合わせたまま高く口笛を吹いて」って説明する間、待っててくれたからなんとかなった。

この山に入ってくる者には、山を登る前にあらかじめ闇の者に関する礼儀を教えておかなきゃならないみたいだ。