Tom Σ 序章

はじめまして。僕の名前はルディ。あいさつ文が堅苦しいかもしれないけど、SNSって言うものに慣れてないだけだから、気にしないで。

僕は今年の6月に父親になる。今は生まれてくる子供の性別が事前に分かる時代だけど、僕と妻は生まれるまでの楽しみに取ってある。

産婦人科の医師は知ってるけど、性別の話は伏せてもらってる。

妻の名前は、シャルロッテ。夫の僕が自慢するくらい、翡翠色のタレ目がチャーミングな女性。

子供の名前は、女の子だったらシェリー、男の子だったらシェディにするつもり。

僕が父に親になるなんて、10代の頃の僕だったら、絶対考えつかなかっただろう。

だって、あの頃はすっかり現実の冒険…つまり、バックパックを背負って国中を旅してたんだ。

一人旅ならカッコ良かったかもしれないけど、生憎、姉さんが一緒。

秘密だけど、姉さんは占い師なんだ。旅をしながら、あちこちで色んな人を占って、路銀を稼いでくれた。

僕は姉さんのボディガードって所かな。姉さんに助けられたこともいっぱいあるんだけどね。

色んな人と出逢ったり、ここに書きつくせない色んなことがあった。

20代になって、家に戻ってきたら、学校に入りなおした。別にそれまで不勉強だったわけじゃないよ。高校までの単位は取ってたから、大学に入ったんだ。

その期間が終わったら、家を継ぐことにした。旅から帰って来た時点で、それは覚悟してた。

占い師の姉さんには、その頃色んな場所で顧客がついてて、姉さんも一度かかわった人達の運命を途中で投げ出すなんてできないって言ってたし、

僕も小さい頃から、なんとなく家を継ぐのは僕なのかなぁって思ってたから。

旅の間に、僕がなんにも変わらなかったわけじゃないし、シャルロッテと出逢ったのだって、旅先だもの。

あのバックパッカー時代が無きゃ、今の僕は居ない。

シャルロッテは占星術師。タロット占い師の姉さんとは、ちょっと違う占い師かな。

出逢った時から、不思議な女性だって思ってた。誰に似てるってわけでもないし、でも、なんだか懐かしい感じがしたんだ。

シャルロッテとは、出逢った後、連絡先を交換した。

大学に通ってる間に、彼女は僕に会いに来てくれて、結婚しようってことになった。

もちろん、プロポーズは僕から。なんて言ったかは秘密にさせて。さすがに、あの時のテンションは僕も恥ずかしいくらいハイだったから。

僕の言葉に、シャルロッテは、「私達は、ようやく出逢えたのね」って言ってた。

彼女の占った方法では、僕達は生まれるずーっと昔から、互いを気にしながら、すれ違うように生きてきたんだって。

それで、現世でようやく婚儀をかわす仲になれたんだって言ってた。

占いってものはよく分かんない僕としては、不思議な話だったけど、プロポーズの返事としては、かなり気の利いた言葉だった。

その言葉を来た時、思わず、彼女をハグしちゃったよ。

僕にはもったいないくらい素敵な女性だって思った。

待って。ちょっと顔がほてって来ちゃった。


何処まで書いたかな。ああ、プロポーズのことか。そんなわけで、僕は家を継いで、結婚して、ついに子供まで授かるって言う、絵に描いたみたいな幸せを手に入れたわけだ。

だけど、この家を継ぐまでと、継いだ後が大変でね。

子供の頃は憧れの存在だった父さんとは、意見が対立することも増えてきた。だって、父さんの感覚ってすごく古いんだもん。

父さんも、癇癪を起こすわけじゃない。だけど、静かに淡々と理論攻めにしてくるから、僕もその理論に対抗したくなっちゃうんだ。

子供が生まれてくるまでに、せめて衛生面と古風過ぎる仕来たりをどうにかしなきゃって、僕も焦ってる。

人並みに年齢は重ねたけど、家を離れてた期間が長いからね。


シャルロッテのお産を待ちながら、タブレットでこの文章を書いている。立ち合おうかと思ったけど、シャルロッテは陣痛に苦しみながら、「これは女の仕事だから」って言って、僕の同席を拒んだ。

大きな病院だから、産婦人科では、毎日たくさんの子供が生まれてるみたいだ。

僕はとにかく待つしかない。どうか、安産であってくれ。


10時間経過した。シャルロッテの陣痛が始まったのが午前7時頃だったから、今は17時。ようやく、助産師さんが僕を呼びに来た。

「処置が終わりました。奥様と赤ちゃんがお待ちですよ」って言われた。僕は長い緊張から解放されて、自然に笑みが浮かんできた。

さて、僕達の子は、シェリーかな? シェディかな?