Tom Σ 3

シェディ・ウィンダーグが生まれてから、6年後。アリア・フェレオとその夫の間に、子供が生まれたそうだ。名は、レミリア。

アリア・フェレオに似た金色の髪と、夫のテイル・ゴーストに似た紫色の瞳と褐色の肌をした女児だ。

ルディ・ウィンダーグが話すところによると、アリア・フェレオは私の形成したストーリーに則し、隣国ベルクチュアでは言語学の教師として、山間の町で塾を開いている。

テイル・ゴーストは、ディオン山のベルクチュア側で、山の管理人の仕事を見つけ、ベルクチュアで一定の訓練を受けてから赴任しているらしい。

「テイル君が、『今まで通りの生活をしてるのに、急に金をもらえるようになった』って言ってたってさ」と、ルディ・ウィンダーグが私に伝えてきた。

テイル・ゴーストを慕って、ディオン山のデュルエーナ側からベルクチュア側を訪れる闇の者も少なくなくなったと言う。

レミリアの面倒は、ディオン山に居る、アリアの父母達が見ている。

きっと、この子供も、闇の者や魔術と深いかかわりのある人間に育つだろう。


レミリアが3歳になる夏、アリア・フェレオとテイル・ゴーストが、娘を連れてウィンダーグ家を訪れた。

ルディ・ウィンダーグは、シェディに「お前の従妹だ。一緒に遊んでやれ」と言って、二人を昼間の庭に出した。

「日光に当たるのは30分だけよ」と、シャルロッテが声をかけたら、「分かってる!」とシェディは答え、レミリアの手を引いて屋敷の庭の「面白い場所」を教えて回った。

「レミー、良いかい? この銅像だけど、魔術がかかってるんだよ」と言って、シェディは自分の手指の先に魔力を込め、庭に飾られている銅像にそっと触れた。

途端に、銅像が、魔力を持った物にしか分からない青い火花を散らし、シェディの指をはじき返した。

「ね? すごいだろ?」とシェディが得意そうに言うと、「退魔の力が宿ってるのね」と、レミリアは答えたと言う。

「レミーって、魔術のことわかるの?」

シェディがそう聞くと、「おばあちゃんが魔女なの。赤ちゃんの頃から、魔術については色々教えてもらった」とレミリアは答えたと言う。

「すごいや。じゃぁ、こっちに来てみて」と言って、シェディは従妹を連れて、魔法植物の植えられている花壇に行った。

「この花、夜になると、ほんのり光るんだ。これの名前は?」

「夜光草だね」とレミリアは言った。

そして2つ3つ夜光草が枯れているのを見て、「シェディ。あんまり悪戯はしないほうが良いよ。夜光草は、墓や家を荒らそうとする者を追い払うために植えるんだから」と続けた。

そうすると、シェディは気まずそうに頬をかき、「なんで僕が枯らしたって分かるの?」と聞いた。

「夜光草達が、『悪戯主が来た』って言ってる」とレミリアは答えた。


アリアの一家は、その日、パルムロン街に一晩宿を取り、翌日ベルクチュアへ帰って行った。

ルディ・ウィンダーグが、レミリアはどんな子供だったかをシェディに聞くと、シェディは「魔術について、すごく詳しい子。後、植物の心の声も聞こえるみたい」と答えたと言う。

「僕が面白いと思ってたことも、レミーには当然みたいな感じで、なんだか僕って世間知らずなんじゃないかと思った」と。

「3歳の子供に知識で出し抜かれると言うのは、9歳の子供には少々ショックなようだ」とルディ・ウィンダーグは言う。

「子供は可能性を持っています。それを発見し育てることが子育ての醍醐味では?」と私は答えた。

「僕の子供の頃みたいに、放っておけば勝手に興味を示すと思ったんだけどね…」と、ルディ・ウィンダーグは悩んでいる。「兄弟が居ないって言うのは、刺激が無いって事なのかな」

「3歳程度までの幼児は、一人っ子である場合、共感性が薄く、自己主張の強い傾向にあると言う統計があります」と私は答えた。

「つまりシェディはワガママってこと?」と、ルディ・ウィンダーグは腕を組みながら聞く。

「競争社会で生きる場合には、秀でた能力を発揮する場合もあります」

「『場合も』か」とルディ・ウィンダーグは言って、「やっぱり、学校に通わせるべきだったかなぁ」とぼやいた。


シェディ・ウィンダーグは、7歳の頃から、家庭教師に学業を教えてもらっている。

外国語を覚える時、その教師が「私の知っているホストファミリーのお子さんに手紙を書きましょう」と言い出した。

シェディは、二つ返事で了解した。レミリアと言うライバルを得てから、シェディは知識に貪欲になったようだ。従兄として、何かレミリアに自慢できることがほしいのだろう。

家庭教師の言う「手紙の作法」に従って、シェディは自己紹介と家族の紹介を最初の手紙に書いた。

その後、つづりの間違いなどが無いかチェックしようとした家庭教師が、生徒にこう言った。

「シェディ、手紙をユニークにしようと言う気持ちはわかるけど、『お化けの一家です』って言うのは、ちょっとショッキング過ぎるよ。向こうが分かる程度のユーモアにしなきゃ」

シェディ・ウィンダーグも、何故自分の家で起こっている一連の現象を「他人」に話してはいけないのか、と言うのがまだ分からなかったようだ。


その日、シェディは父親と母親から「家の秘密を守ること」を約束させられた。

今まで、自分の中で「普通」だったことが、外の世界では「異質」なことであると聞かされ、シェディはひどく落ち込んだようだ。

それから、次第にシェディは無口になって行った。