Tom ΣⅡ 序章

デュルエーナが良い国かって言ったら、「住めば都」ってやつだ。俺達パンパネラへの風向きが強いのは、どの国でも同じ。

自分達を「食べる」かも知れないものに、近くに居られるのは嫌だって言うのは俺も分かる。

だが、今回は人間同士の争いの話だ。

人間は、魔術を操る者の数も少ないし、元来はひ弱だが、火器や色んな道具を使って武装する術を知っている。

心がひ弱なものが、力だけを手に入れた時、悲劇は起きやすい。

もちろん、人間全部の心がひ弱だって言いたいわけじゃない。そんな奴ばっかりなら、俺だって人間の「時間」なんて食いたくないだろうな。

最悪なことに、孫には悪食だと思われてしまっているが、俺自身はそれはそれは相当な美食家であることは自負している。

レティ。喜べよ。お前のは緻密に味付けされた繊細で優雅な味だし、クリスティのは、その優雅な味を知る者が作った芸術作品の味だ。

例えが分かりにくい? お前、一度、デルタリアにフルコース食いに行ってみろ。俺と同じようなこと言う奴いっぱいいるぞ。

それはそうと、ここしばらく平和だったデュルエーナにも、ちょっとした危険が迫っている。

お前達みたいに、山に籠って暮らしてる連中には、あまり関係ない事だけどな。

どんなことが起こるかは、あいにく分かってるんだ。サスペンスは提供できないが、あらましの解説くらいは出来る。

最初に起こった事件は解決済みだ。

その件から、誰かがデュルエーナに戦火を巻き起こそうとしていることが判明した。

俺もロスマイラーでその話を知った時は、些細なテロかと思った。

テロリズムに些細も何もあるかって言ったら…俺が巻き込まれたんじゃないから、些細って言えるってことかな。

ロスマイラーの田舎町の喫茶店でテレビ見てたら、デュルエーナでの事件が報じられて、その時、ロスマイラーの連中は総立ちになって拍手してたな。

何の騒ぎなんだって喫茶店の店主に聞いたら、「盗人が裁かれる時が来た。って言ってるのさ」だとさ。

順に説明するとな、何十年か前の戦争での戦勝国であるロスマイラーが、敗戦国のルミアラって言う国の天然資源採掘所を占領してたんだ。

だが、その後ルミアラは復興と独立を果たして、天然資源の所有権をロスマイアラーから勝ち取った。

ところが、ロスマイラーはその話を認めない。ルミアラの天然資源は全部ロスマイラーを中継して取引するようにって言い張ってた。

だけど、デュルエーナはルミアラの独立を認めて、ロスマイラーを中継せずに、ルミアラから天然資源の直接買い付けをするようになった。

そのことにロスマイラーの連中は腹を立てて、デュルエーナを「強盗国家」って呼んでたらしい。

デュルエーナがルミアラとの貿易に成功すると、第二第三の顧客が増えて、ルミアラは著しく発展した。

ロスマイラーはそこここに占領区を持ってる国だから、一国手放したくらいなんともないはずなんだが、国内で起こった大規模なインフレを、先の「強盗」のせいだと主張している。

国内の不満を、国外に敵を作ることで発散させるって言う、よくある手段だ。

それで、ロスマイラーの国民は、デュルエーナには、ある種の敵対意識がある。

デュルエーナでは、ロスマイラーはそんなに取りざたされていないが、無用な言いがかりをつけてくる国だと言う悪印象はある。

他国で起こったテロを喜ぶような風潮の蔓延してる国じゃ、社会常識ってものがどうなってるかは分からんが、実際にロスマイラーからテロを起こすものが出てきてもおかしくない。

その状況で、戦火が起こったらどうなる?

問題はそこなんだ。

テロリストが何処の誰で、何の目的があるのか。

俺が調べなきゃならないことは、それだけ。

それも、テロが起こる前に事前に情報を収集して、戦火を回避しなきゃならない。

しばらくぶりの無理難題を吹っかけられたぜ。

でもこれはチャンスだ。事前に阻止できれば、孫からの信用は取り戻せる。

まだ10歳にもならない子供が、毎日見る怖い夢に怯えてんだぜ? ここでじーちゃんが頑張らなくて、いつ見せ場があるって言うんだよ。

いや、俺も自分が「じーちゃん」に見えないことは分かってる。

孫には、名前で呼ぶように躾けてある。そこは抜かりない。

孫の名前? レミリア。大体の奴からは、レミーって呼ばれてる。

別に子供好きなわけじゃねーよ。唯、成長するものを観てるってのは面白いぜ? 娘があのくらいの時も、魔力の操り方を教えるのに手を焼いてたもんな。

さぁて、レティ博士。手伝ってもらいますか。

注文した受信機は、もう出来上がってるんだろ?