改めてご飯が美味しいってことが分かってきたある日、ルルゴが「たまにはお散歩など致しませんか?」と勧めてきた。
天気も良かったし、ヒーラーのおばあさんが来てから7日間が経ってたし、私は出かけることにした。
ルルゴは鬼火達を指揮して、ハーブの香りのする冷たいお茶を水筒に淹れ、サンドイッチの昼食をバスケットに詰めると、5時間後きっちりに自分の金時計をセットして人間に化けた。
「では、参りましょう」と言って、水筒とバスケットを持って先に玄関から外に出た。
私は、「水筒くらい持つよ」と言ったのだけど、「いいえ。お体に障ります」と言って、ルルゴはなんにも荷物は持たせてくれなかった。
しばらく歩くと、花のたくさん咲いている大きな公園に着いた。
「シャーロン市のセントラルパークでございます」と、ルルゴは言った。「草花から果樹まで、四百種類以上の花が見物できます。今の時期は、ラピスローズの見頃かと」
「ラピスローズって?」と、私が聞くと、ルルゴは速やかに答えた。「その名の通り、ラピスラズリのような青い色のローズでございます」
そう言ってから、ルルゴは小声になって、「ある科学者が、科学と魔術の知識を使って作り上げたのだとか」と、私の耳に囁いた。
私がルルゴに連れられて、ラピスローズの生えている場所に行くと、鮮やかな青のバラが、甘い匂いを放ちながら咲き誇っていた。
色んな花を見て回った後、またラピスローズの所に戻ってきて、ラピスローズの様子をしっかり観察した。後で、家に帰ってから「念写」するつもりだった。
ルルゴは、私が青いバラを気に入ったのが分かったみたいで、「お写真をお撮りしましょうか?」と言い出した。そして、ポケットから小さなカメラを取り出した。
「良いよ、後で念写するから」と私が言うと、「療養中に無理をなされてはいけません」とルルゴは厳しく言って、笑顔を作る暇もないくらいの早業で、薔薇と私を写した。
フラッシュに驚いてる、エキセントリックな顔になってないと良いけど。
その後、公園のベンチでお昼を食べることにした。
ルルゴが、お茶の入ったカップとサンドイッチの入ったバスケットを私の横に置いて、自分はにこにこしながらベンチの横に立っている。
「ルルゴは、なんにも食べなくて良いの?」と言ってみたけど、そう言えばルルゴが食事を摂っている所を見たことが無いなぁって、その時ようやく気付いた。
「勤務中ですから」とルルゴは言ったけど、そんなこと言ったら私の周りにいる間は、ずっと勤務中じゃないのって思って、その事をルルゴに伝えた。
そしたら、「アリア様がお休みになった後、しっかり食事は済ませていますから、ご心配なく。さぁ、お召し上がりください。お茶が温まってしまわないうちに」と、ルルゴは答えた。
散歩に行ってから数日後、ルルゴが、写真屋に頼んでいた、現像されたフィルムと写真を持って帰ってきた。
いつの間に撮ったのか、色んなカラフルな花が移されている写真の中に、やっぱりフラッシュをまともに見て、目を2倍くらいに大きくしてるエキセントリックな表情の私が写っていた。
その隣には、ラピスローズが群生している。
「この青いバラがアリア様のシアンの瞳によくお似合いですよ」と、ルルゴは嬉しそうに言った。
ウサギなのに、年頃のお嬢さんをほめそやす方法まで心得てるなんて、本当、239年前に何があったんだろう。
「ルルゴって、どこで生まれたの?」と、私は聞いた。
「辺鄙な田舎の森でございます」と、ルルゴは言う。
「好きな食べ物は?」と聞くと、「二十日大根の葉っぱや、レタスですね」と、人間ぶって答えた。
「二十日大根の根っこが好きなわけじゃないの?」と聞くと、「我が種族は、今日にもわたって、誤解されたままなのです」と、答えなんだか答じゃないんだか分からない言葉が帰って来た。
そこから、人間で言うなら、ルルゴの「美食自慢」が始まった。ルルゴは、服を着ていようが、後足で立っていようが、どう形容したってウサギだから、人間めかせては要るけど、最終的には、
「三月のたんぽぽの若草ほどおいしいものはありません」という結論で、話は終わったけど。
いつかルルゴにプレゼントを渡す日が来たら、ウサギ用ペレットをあげてみよう。
以前来た時から、2週間後に、以前と同じヒーラーのおばあさんがアパートを訪れた。
私はベッドの端に座り、おばあさんはルルゴがベッドの向かい側に置いた椅子に座った。
「だいぶ力が戻ってきたようね、ミス・フェレオ。でも、まだ油断しちゃだめよ? 一時的に力が戻ってきたと思っても、それは『これから使う力を養うための力』なの。
あなたの能力は、まだ成長期。これからどんどん、力を使うための知識や技を吸収して行って、あなただけの力を発現するときが来るわ。
そのときのために、少しずつ、力を抑えながら使うコントロールをしてみて。あなたのお仕事はアミュレット技師だったわね。じゃぁ、まず自分の力を回復させるアミュレットを作ってみたら?」
ヒーラーのおばあさんにそう言われて、私は初めて「自分のために自分の力を使う」って言う発想をもらった。
おばあさんは、私の額に触れて、また着付け程度の霊力を分けてくれると、ルルゴに挨拶をして帰って行った。
私は、さっそく仕事復帰のために、文字の練習を始めた。カリグラフィーって言うのは、手に技を付ければいつでも思い出せるけど、絵と同じで、一日でも休むと、がくんと技術が落ちてしまう。
手の震え、力の入りすぎ、そんなことに気を付けながら、なんとか一枚の護符を仕上げた。
魔法薬のインクと普通のカラーインクを混ぜて、グラデーションを作る方法も、久しぶりにしては上手く行った。
私のための、私を守るアミュレット。インクが乾くまで待ってから、そっと手をかざすと、仄かな暖かさを感じた。
私の手から、微かに力を送ると、それに応じるように、数倍に増幅された力が戻ってくる。
「私の治癒のアミュレットって、こんな感じだったのね」と、呟くと、ルルゴは「見事なものでございますね。小さな光の泉のようだ」と、気取った誉め言葉を返してきた。
