054 「A_Holiday」

恵みの雨が降り注ぐ

少し憂鬱な8月の空です

アスファルトから焼けた匂いが漂って

少し息苦しくもあります


食べてはいけないと言われた

水槽の中の赤い子に

なんで水の中にいるのと

聞いてみたのですが


なんで水の外にいるのと

聞き返されました

どんな生き物も夫々の都合があるのだと

知ったかぶってポチが答えました


僕は三毛猫なので三毛ですが

ポチはどこにもポチがないのにポチなんです

犬だからポチなんです

ご飯をくれる人たちの都合です

名前をもらっただけ良いさ

そろそろお爺さんのポチは言いました

ポチは僕が小さい頃からポチでした

これから先もずっとポチなんだろうと思っていました


秋風が吹き始める頃に

僕はポチとお別れしました

何度呼んでも返事がなくて

遊ぼうよって言っても 苦しそうに息をつくだけです

とても寒くなったある日に

ポチは連れて行かれました

「老衰だって」とご飯をくれる人達が言いました

なんのことだかよくわからないけどお別れの意味なんだと思いました


春が来るまで待っていました

さやさやと花房を揺らす木々が

芽を吹くころにポチが言いました

ずいぶん早く来てしまったねぇ

だけどまだ君に此処の暮らしは早いようだよ

10年後にまたおいで

そう言ってポチは花の降る公園を歩いていきました

なんのことだかよくわからないけどまた遊ぼうってことなんだと思いました


きっとポチはずっと花の降る公園の中で日向ぼっこして待っているんです

僕は甘い花の匂いが褪めてゆくのが分かりました