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時々徒然

随筆 カステラ

卵と小麦粉と重曹と、少しのみりんと、たっぷりの砂糖で、そいつは構成されているらしい。

そいつのしっとり感は、大量に投下された砂糖の威力だそうだ。

クッキングペーパーに上下を包まれてこんがりと焼かれ、長方形に切って売られているのが現在の一般形式だ。

上の紙を剥がすとき、ぺろーんと姿を現す、こんがりとした茶褐色、子供達も大人達も期待を膨らませる。

だが、敵はそいつの下に潜んでいるのだ。

下のペーパーを剥すとき、せっかくの香ばしい焦げがごっそりと奪われ、ざらざらとした、二目と見られぬあばた面になる。

だが、子供達は諦めない。クッキングペーパーについた甘い焦げを、なんとかして食おうとする。

究極は、紙ごと食らうのである。

素晴らしい。素晴らしい野生の本能だ。それでこそ、食(じき)に飢えた幼子でなければならない。

大人はそれを止めさせる。「行儀が悪いでしょ」と。実際、紙を食ってる子供は、あまり見栄えの良い物では無いかも知れない。

だが、それはカステラの構造が悪いのだ。

上の紙はあんなにペロンと剥がれるのに、下の紙は…時に、下側の焼き面をごっそりさらっていく。

上っ面しかないカステラなんて、カステラではない。

子供達は言うだろう。「カステラの全てを味わい尽くしたいんだ!」と、心の中で。

恐らく、カステラの紙を食う子供達は、その思いを言葉にはしないだろう。

まだ、何故自分がカステラの紙にへばりついた「焼き面」に執着するのか、自覚は無いと思う。

だが、彼等は確実にカステラと言う一個の、一切れの、下面になったばっかりに紙にくっついてしまった焼き面の悲しさを、しっかりと理解しているのだ。

磯野サザエ夫人が、家政婦として、とある富豪の家で働いていたとき、真四角のカステラの箱を差し出され、

「一切れ切って召し上がれ」とその家の奥様に言われた。

そして磯野夫人は、カステラの箱一面に沿って、びろ~んと長く切った。皿からはみ出しているびろんびろんのカステラを運びながら、

「どう切ったって一切れは一切れだ」と呟くのだ。

だが、そのカステラには…下の焼き面がついていなかった。恐らく、取り出すときに下の焼き面が全部…カステラの紙に吸着されてしまったのだ。

しかし、磯野夫人はそんなことは気にしない。何故なら、彼女は「成人女性」だから。

しかも、たっぷりの上の焼き面を食べることができるのだ。下面くらい別に良いだろうと思ったのかも知れない。

紙に下の焼き面を奪われたカステラは泣いた。下の焼き面は、ゴミとして処分されるのだ。

浮世の成人達よ、卑しいとは言わず、世の子供達に、「もったいない」を教えてくれ。そして、フォークで紙についた下面をこそぎ落とす方法を教えてくれ。

その技術を知らないだけで、下の焼き面がゴミになってしまう。さぁ、カステラを愛するすべての子供達よ、今こそフォークを手に持て。

そして、紙にくっついている下面を、皿にこそぎ落とすのだ!

カステラの全てを味わい尽くせ! その脳内から出る「食」へのドーパミンに従って!

ただ、大人になったらやめようね。